キャパシティーを増やし、来園者数を増やして売り上げを上げるという方針から、1人当たりのゲストの満足度を高めて単価を上げる方針への転換――コロナ禍で入園者が減ったことで結果的に体験価値が向上し、1人当たりの支出が増えたことから示唆を得たものですが、この決断は見方を変えれば、全ての人に平等に接するのではなく、高い対価を払える顧客を「選別」したということになります。

 高付加価値に対価を払える顧客を選ぶことはマーケティングのセオリーですが、リスクがあるのも事実です。

 顧客を「選んだ」ということで、ブランドを毀損する可能性もあります。「選別」することで顧客セグメントが狭くなり、新陳代謝が鈍化する可能性もあります。実際、ディズニーリゾートの顧客は40歳台が増えつつあり、ファン層の拡大はいずれ課題となるでしょう。

 とはいえ、逆境を逆手に取り、下がりかけていた満足度を取り戻し、本気度の高い層へと絞り込んで単価を上げる。この「選別」の決断こそが、起死回生をはかる「魔法」の戦略だったことは間違いありません。

ディズニーが示した
「ボリューム」を捨てる勇気

 ディズニーの事例からわれわれが学ぶべきは、値上げのテクニックではなく、ブランドの根幹を守るために、目先の「ボリューム」を捨てる勇気があるか、という問いです。

 多くの企業は無意識のうちに「売上増=客数増」と考え、無理な集客や安売りを行って、提供価値の希薄化や現場の疲弊を招いてしまいがちです。

 しかしディズニーは、あえて「ボリューム」を捨てて、1人当たりのサービス密度を高める道を選びました。もちろん、この決断は将来のファンの離反というリスクを孕む究極の選択です。ですが、中途半端な満足度でブランドを沈没させるよりは、はるかに誠実な挑戦といえるでしょう。

 みなさんのビジネスでは、「数の維持」が目的化してはいないでしょうか。ディズニーが証明した魔法の正体。それは、目先の数字を追うのではなく「顧客にとっての価値ある体験」を優先するという、勇気ある経営スタンスなのです。