中国で国民的人気を誇る女子スキー選手、谷愛凌(アイリーン・グー)

 その彼女が2024年にリンクへ復帰。その復帰はフィギュア界で大きな注目を浴びたというが、情報に疎い筆者のような門外漢には、大変申し訳ないが、今回の金メダル獲得までその話題はまったく届いていなかった。

 ただ、彼女にまつわる話題を今回の五輪開始直後に目にしたことがあった。それは中国メディア上で流れた話で、そこでは彼女は「劉美賢」と呼ばれていた。そしてそんな記事には、ほぼ必ずといっていいほど、中国では国民的人気を誇る女子フリースタイルスキーの谷愛凌選手――米国名はアイリーン・グー――が引き合いに出されていた。

 アリサ・リウとアイリーン・グー、あるいは劉美賢と谷愛凌。確かにこの二人はともに、中国人と西洋系米国人の間に米国で生まれ、米国で教育を受け、トレーニングを始めてアスリートとして成長し、目を引くような記録を残した。だが、その圧倒的な違いといえば、リウが徹頭徹尾、米国選手として五輪に出場したのに対し、グー選手は2019年に中国ナショナルチーム入りを宣言して以来、数々のチャンピオンシップや北京五輪・コルティナ五輪でずっと中国人選手として出場していることだ。

 スラリとしたスタイルで、ちょっとエキゾチックな彫りの深い顔立ちのグーが「中国選手」を宣言したとき、中国では大歓声をもって迎えられた。彼女は小さな頃から毎年夏休みには北京生まれの母親に連れられて北京で過ごしていたというだけあって、多少米国訛りながらもかなりスムーズに中国語が話せることも、庶民の好感度につながった。

 だが、「なぜ生まれ育った米国ではなく、中国へ?」という問いかけはつねに彼女について回る。これについて、彼女は今五輪直前に受けたインタビューにこう答えている。

「米国には、わたしからすると仰ぎ見る人たちがたくさんいる。でも、中国にはそんな人があまりいない。つまり、わたしは中国で活動する方が米国より大きな社会的インパクトをもたらすことができると考えたの。それが最終的な判断材料となった」

 確かに、彼女にはその中国での人気ぶりに目をつけた中国企業、あるいは中国での市場拡大を狙う欧米企業からのスポンサーシップやイメージキャラクター契約が殺到。わずか22歳で世界の女性アスリートとして第4位、年間2000万ドルを稼ぐ立場になった。その裏にはウォール街出身で、中国で最初のベンチャーキャピタルを立ち上げたといわれる、北京出身の母親の力が大きいと見られている。