この発言における「3人のコーチを紹介」は、自分のコーチ3人を中国のナショナルチーム予算で雇用しているというのが実情らしく、つまりその3人は彼女専用のコーチなのだそうだ。「ナショナルチームに紹介した」は誇張だという反論も起きている。

 さらに「中国と女性のために世界に向けて声を」という点も、彼女が自分を「中国人」と呼ぶのは中国語でのインタビューやSNS上だけで、欧米社会に向けて彼女自身が自分を「中国人」と呼ぶことはめったにないという指摘もある。つまり、「世界のアイリーン・グー」と「中国の谷愛凌」はまったくの別物なのだ――というのが、彼女を嫌う人たちの声だ。

660万ドルの「特別報酬」とリウ選手への期待

 さらに、である。

 コルティナ五輪の真っ最中に米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(以下、WSJ)が、「北京市体育局は2025年の予算において、グー選手ともう一人の華人系選手・朱易選手に合計約660万米ドルを支払うと書き込んでいた」と報道した。朱易選手はフィギュアスケーターで、英語名を「ビバリー・ジュー」という。

 筆者にも、うっすらと記憶があった。昨年、その予算がネット上で騒ぎになったときのことだ。ネットユーザーがその名前を発見して話題になったと記憶しているが、北京市体育局はきちんとした説明も行わないまま、一度は公開した予算文書を非公開にし、再度公開されたときには二人の名前は削除されていた。

 つまり、グー選手とジュー選手は「中国ナショナルチームの一員」として特別報酬を受け取っていたということだ。はっきりとしない国籍問題に加え、こうした政府との金銭の授受の事実は、グー選手がどんなに活躍(今大会でも金メダルを2つ獲得している)しようと、彼女が口で言うほど「純粋な愛国心」からのものとはいえないという印象を受ける。

 その一方で、「徹底的に楽しく滑ること」「わたしは自分の表現を人とシェアするのが好き」「演技に失敗しても、わたしが伝えたいものは伝えられる。それでいいの」と満面の笑顔で語り、朗らかに他の選手と言葉を交わしたり、ハグし合うリウ選手は、中国の人たちに新しい「華人スター」として素直に受け入れられつつある。

 もちろん、中国人観客にとって彼女たちが「金メダリスト」であることはなによりも大前提だが、もとよりお金や成績自慢が闊歩する中国社会において、そろそろグー選手の存在が飽きられ始めつつあるのは事実のようだ。