社内で物品販売トラブルが~会社が放置するリスクとは

 翌日の夕方。甲社を訪れたE社労士に、D部長は、Aの件についての詳細を説明した。

「これまでにも数々の社内トラブルがありましたが、社員が他の社員に物品を売りつけて儲けるなんて例は前代未聞、初めて聞きました。こういう話は、他社でもあるのでしょうか?」

「最近は副業ブームやSNSでのマルチ商法が広がっているなどの理由で、職場での物品販売トラブルが増えており、放置すると会社にもリスクが発生します」

「そのリスクとは、どんなものですか?」

「甲社の場合、Aさんの訴えが事実だとすれば、大きく分けると次の2つが考えられます」

<Bの行為を放置した場合の企業リスク>
(1)Bの行為が他の社員の職場環境を乱している
 Bは自分の社内での立場を利用して、複数の女性社員に自らが扱う物品の購入を勧め、断ると無視するなど、購入を断れない雰囲気にしている。この行為は、他の社員が安心して働くことができないという意味で職場環境を乱しているといえる。企業がこの状況を放置した場合、業務に影響が出る、執拗な勧誘を受けたり無視された社員が離職するもしくはメンタルヘルス不調になる(この場合Bだけではなく、会社も安全配慮義務を怠ったとして責任を問われる)などのリスクがある。

(2)違法なマルチ商法の可能性がある
 Bが社内で行っているバッグなどの雑貨販売が、違法なマルチ商法に該当する可能性がある。連鎖販売取引は法律上厳しく規制されており、企業が黙認すれば「職場ぐるみ」と誤解され、トラブルに巻き込まれる恐れがある。
○マルチ商法とは、会員が次の会員を勧誘し、連鎖的に組織を広げる販売形態をいう。

「社員が話の中で、自分が使っている商品やサービスを他の社員に勧める場合、勧誘かそうでないかの線引きはありますか?」

<善意の紹介と問題となる勧誘の線引きについて>
○社員が他の社員に「これ良かったよ」などと商品などを紹介する程度であれば、通常は問題にならないと思われる。(この場合、購入を促すのが目的ではない)

○「複数回にわたり継続的に勧める」「断っても再度声をかける」など、購入を促す、もしくは促すような空気をつくる(特に職場は上下関係や人間関係があるため、相手が断りづらい状況になりやすい)といった行為がある場合は、勧誘と判断される可能性がある。