名誉会長職を辞任した日、永守氏は「ニデックは永久に不滅です」などと記したポエムのような適時開示文書を残して去りました。そこには、厳しく糾弾した社員や経営幹部への謝罪の一言もありません。ただただ私が作ったニデックは素晴らしい会社です、という一人語りの文書にしか見えませんでした。

「山一証券の野澤社長のように泣きながら社員を守った経営者とは真逆だ」――こうした反応が出るのも無理はないでしょう。謝罪を強制することはしたくはありませんが、多数の苦しみを与えた張本人の責任の取り方としてはあまりにも無責任な行為だと思います。

「王道経営(健全に成長し社会に貢献すること)」と「王道経理(適正な経理処理と適正な会計報告)」を掲げてきた永守氏。

 報告書によれば、永守氏は経営幹部に対し「日本電産経営の基本は、何処までも王道経営と王道経理処理が最優先することを再度徹底していってほしい」と繰り返し訓示していました。

 しかし、現場の受け止めは正反対でした。

「永守氏ら経営陣は、『王道経理』、『コンプライアンス遵守』と繰り返し述べているが、同時に、不正を引き起こすような非常識な業績目標を設定し、それを絶対に達成するよう強いプレッシャーをかける。『自分は正しいことをしろと指示したが、不正をしたのはお前たちである。』と言っているのに等しく、『狡い』と思う」(国内グループ会社幹部)

 この記事を書きながら、筆者がどうしても頭から離れないことがあります。

 不正に手を染めた従業員や経営幹部たちは、もちろん許されるべきではありません。数字を操作し、投資家を欺き、市場の信頼を裏切りました。その事実は消えません。

 でも、もう一つの事実にも目を向けなければなりません。

「朝まで何でやらへんねや!」と怒鳴られ、休日には「やる気にない幹部は、一日も早く日本電産グループを去って貰いたい」とメールを送りつけられ、業績会議のたびに人格を否定される日々です。

 そんな中で「すみません、この数字は不正です」と声を上げられる人間が、一体どれだけいるでしょうか。

 彼らは不正をおこなった張本人であると同時に、恐怖政治の被害当事者でもありました。

 この二つは矛盾しません。矛盾しないからこそ、やるせないのです。

 自分のキャリアが、生活が、家族の暮らしが、たった一回の業績会議や永守氏の論理で吹き飛ばされるかもしれないという恐怖。その恐怖の前では、人の倫理観はあまりにも脆いものです。

 永守氏は、ニデックを去りました。しかし、彼が残したのは言葉だけではありません。恐怖の中で不正に加担させられ、今後その責任を問われるであろう、多くの「元・部下たち」を残していったのです。

 彼らは深夜のオフィスで、本来計上すべき損失の数字や目標に達していない売上の数字をPC画面に映しながら、どんな顔をしていたのでしょうか。カリスマ経営者が残した負の遺産は、あまりにも大きすぎるものだったのです。

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