医療保険を任意加入にすると
何が起きるのか

 そうなると、そもそもなぜ、社会保険を政府が運営する必要があるのでしょうか。実際、生命保険会社や損害保険会社などが運営している民間保険でも、医療保険や介護保険、年金保険が提供されています。国民は政府に頼らず、市場で民間保険を購入し、自分の力でセーフティーネットを用意すれば良いのではないでしょうか。

 実は、民間保険には、情報の非対称性が存在していることが知られています。この市場の失敗のため、政府が社会保険を運営する方が、民間よりも効率的です。そのことが、政府が社会保険を運営する理由となっています。

 具体的には、民間保険には逆選択が起きています。逆選択とは、情報の非対称性によって起きる現象で、「保険に加入する個人と、保険を運営する保険者の間に、リスクに関する情報の非対称性がある場合、リスクの高い人ばかりが保険に残り、リスクの低い人々が保険から脱退してしまい、十分な保険商品が提供されない」ことです。

 例えば、民間医療保険の場合を考えましょう。生活習慣が非常に悪い、長時間労働やストレスの多い過酷な職場にいるといった情報は、加入者自身はよくわかっていますが、保険会社にはわかりません。

 本来、このような人々は生活習慣病を発症するリスクが高いわけですから、高い保険料を取っておかなければ民間保険が成り立ちません。しかし、保険会社は情報の非対称性のために、それを見破ることができませんから、生活習慣が良く、環境の良い職場に勤めるリスクの低い人々と同じ保険料を設定せざるを得ません。

 すると、リスクの低い人々は、自分のリスクに見合わないほど高い保険料を取られることに不満を感じ、この保険商品を買いません。結局、保険を買うのはリスクの高い人々ばかりということになりますから、保険料はますます高くなり、保険が成立しにくくなる(もしくは十分にリスクをカバーした商品が提供されない)ことになります。