企業家に学ぶ
いまお話に出た柳井氏もまた稀有なリーダーだと思いますが、こうした実業界の方々とお話しされて、学ばれたことや取り入れたことはありますか。
柳井さんは、私からすると、VWの神様みたいな方です。私たちはiPS細胞で病気をやっつけたいと思っていますが、柳井さんは衣料で世界をよくしようと考えておられるようにお見受けします。
単に服をたくさん売って何兆円もの売上げを達成することではなく、衣料で世の中を変えることが柳井さんのビジョンだと私は勝手に理解しています。そのために凄まじい働き方をされている。私にはとうてい真似できないことですが、そのビジョンの強烈さには感銘を受けます。
ビジョンがすごいからワークハードもできる。ワークハードができる人は日本人に多いのですが、あそこまでのビジョンをお持ちの方は少ないように思います。
医療に多額の寄付をされているということで言えば、たとえば楽天の三木谷浩史氏もアメリカ国立衛生研究所(NIH)の小林久隆医師が開発されたがん治療の光免疫療法の研究を支援されていますね。
はい。三木谷さんは年齢も近いこともあって、ずっと親しくさせてもらっています。CiRAにも多額の寄付をいただいたことがあります。
光免疫療法の研究もやはり非常にお金がかかるもので、企業としてだけでなく、私財もかなり投じておられます。お父様ががんにかかられて、最新の治療法を探していた時、出会ったのが小林先生の技術だったと聞いています。実は、小林先生は京大のご出身で、現CiRA所長、髙橋淳先生と同時期に京大医学部で学ばれていました。
光免疫療法もけっして安くはありませんが、三木谷さんはこの治療法を世に広めてがん治療に一石を投じたいと考えておられました。高額な医療を良心的な価格にしたいという点では、我々も同じ志を持っていますので、大変共感できます。
もちろんiPS細胞から作製したT細胞やNK細胞などの免疫細胞を用いてがん免疫再生療法研究に取り組んでいるCiRAの金子新教授のグループをはじめ、iPS細胞関連でもがん治療に貢献するプロジェクトがいくつも走っています。いずれも画期的な研究ですが、世界的な競争も非常に激しくなっています。競争というのは患者さんにはとってはいいことですが、研究者にとっては大変なんです。
組織としての今後のチャレンジと、先生ご自身の目標について教えてください。
前述したパーキンソン病の治療の実用化が目前に迫っていますが、まだ完成形ではなく、まだまだ改善できると思っていますので、研究所として努力を続けていきます。私自身は、名誉所長と教授を務めるCiRAはあと2年で定年を迎えますが、財団の定年までは時間に余裕があるので、貢献できる限り、取り組みたい。
一個人としては、iPS細胞ができる前からずっと追い求めているテーマがありまして、そちらの答えを今後5年以内には出したいと思っています。すなわちそれは、アメリカ留学中に初めて見つけた遺伝子、NAT1(ナットワン)についてです。
当時、NAT1の機能を調べていく途上で、ES細胞に出会い、それがiPS細胞につながりました。NAT1はES細胞やiPS細胞だけではなく、全身で働いているのですが、たとえば脳や心臓でどのような役割を果たしているのかはまだわかっていません。それを解明したいのです。
細胞の機能の根幹に関わる遺伝子の一つであることは確信しており、いまの教科書の内容を塗り替えるような可能性があると考えています。
CiRAと財団としての目標は、設立以来20年間首尾一貫していて、iPS細胞を使った治療を必要な患者さんに届けるというビジョンに終わりはありません。ですから、これをしっかりやり続けることに尽きます。
◉聞き手|岩崎卓也(本誌論説委員)
◉構成・まとめ|奥田由意、岩崎卓也 ◉写真提供|京都大学 iPS細胞研究財団



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