お客からも「慣れ親しんだこのままがいいんだ」と言われ……

久:昔の開発者に話を聞いたら、考えに考え抜いて改良して、市場テストでお客様に「いかがです?」って提案したら、「勝手に変えるな」とえらい剣幕で怒られたと言っていました。明らかに使いやすく進化させたのに怒られたと(笑)。

 お客様は「長い間慣れ親しんだ"このまま"がいいんだ。もう365日こいつと一緒にいて、乗り方も使い方も身体に染み付いているんだ」、と。そういう機種はホンダの中でも極めて特殊で、「いろんな機種をやってきたけど、カブ以外にはなかった」とその開発者は話していました。

F:せっかく良くしようと改善案を提示しているのに。

久:もう調査の段階で「ダメだダメだ!」と否定されちゃう。だから荷台の高さすらも変えられない。荷台の高さはデビュー以来ずっと変えていないんです。

F:でもちょっとへこみますよね。エンジニアさんだって一生懸命考えて、実験もして、練りに練ってから「これでどうだ!」と提案するわけでしょう? それを「慣れていないからダメだ」と言われても……。

八:まあウチには他にもたくさんの車種がありますからね。違うバイクを造ればいい(笑)。

スーパーカブの燃費は今が過去最高値、ではない

F:そういう意味では、派生車種のクロスカブとハンターカブは大成功ですね。アウトドアテイストを適度に織り込んで大当たり。しかも結構なお値段です。中古価格も高値で安定しています。

八:会社としては大きなチャレンジだったのですが、ああいうバイクが受け入れられたのはものすごくありがたいです。クロスとハンターは、お客様がそのままの形では乗らないんですよね。いろいろとパーツを付けて乗ってくださる方がほとんどです。

久:超商用車なのですが超趣味車みたいな位置付けで、例えばハーレーのような大型オートバイにも引けを取らないような、趣味性を投影する対象でもあるんです。

F:カブは燃費もどんどん良くなっていますよね。現行型が過去最高値ですか?

八:いえ。燃費に関しては過去の方が良かった時期があります。昔はカブも、キャブ車(キャブレター式:空気の流れを利用して、負圧でガソリンを吸い上げて混合気を作る機械式)だったのですが、キャブ車の最後のモデルは、思い切り燃費に振ったモデルを出していたりもしたので、初期のFI(フューエルインジェクション式:センサーで吸気量、気温、エンジン温度、スロットル開度などを検知して、インジェクターが燃料を噴射する電子制御式)よりも、はるかに燃費の良いモデルがありました。1982年発売のスーパーカブ50 SDXは、定地走行でリッター150kmなんていうとてつもない数値を謳っていました。

F:リッター150km! そんなに……。

1982年に登場した「スーパーカブ50 SDX」(広報写真)1982年に登場した「スーパーカブ50 SDX」(広報写真)

八:あくまでストップ&ゴーがなく、一定速度で走り続ける「定地走行」の話ですよ。燃費に振って出力を落とした、いわば「燃費スペシャル」です。使い勝手も、ちょっと悪かったかもしれません。