メンタルが安定せず
不振に苦しんだ昨シーズン

 人はなぜ緊張したり、あせったりするのでしょうか。2025年の僕は不振に苦しみ、メンタル面でもこれまでにないほどの課題にぶち当たりました(編集部注/2025年は開幕から不振で初めて二軍降格を経験。8勝9敗とプロ入り初の負け越しシーズンとなった)。

 緊張する人に話を聞いたことがあります。その人は「スポーツメンタルスキルコーチ」の指導を受けたことがあるそうです。

・抑えられなかったら(打てなかったら)どうしよう
・抑えたら(打てたら)ヒーローだ

「同じ物事」のとらえ方であっても、前者より後者のほうが明らかにポジティブ思考です。「不安の内容そのものがミスの原因」ではないわけです。だから無理に「不安」や「緊張」を消し去ろうとするほど、プレーに集中できなくなるようです。

 大事なのは「いかに不安と付き合いながらプレーしていこうかと考え方を変えること」だそうです。それに、心理学的には、少し緊張するぐらいのほうがパフォーマンスは高まるみたいです。

 知らず知らずのうち、僕にもそのようなメンタルになった出来事がありました。2024年5月10日のヤクルト戦(神宮球場)です。

 あの試合、いろいろ張りつめていたものがあったのか、なぜか1回裏を抑えただけで、5イニングを投げ切ったぐらい疲労感が強かったのです。感情的にもよくなかったですね。

 巨人1対0のリードで迎えた2回裏。2アウトでランナーなしから下位打線の6番・長岡秀樹選手、7番・中村悠平選手に2連続フォアボールを与えて一、二塁。8番・武岡龍世選手は、カウント3ボールから4球目のストレートを振ってくれ、二塁フライでチェンジ。何とかピンチを脱しました。

立ち直りのきっかけとなった
阿部監督からの助言

 僕はマウンドを降りてベンチに戻りました。阿部慎之助監督が、すかさず僕の横に来て、肩を組んで耳元でこうささやいたのです。

「翔征、100パーセントを求めすぎるな。もっと大胆に投げていけよ!」

 2024年の開幕投手に選ばれて、幸先いい白星を挙げたものの、以後5試合で1勝1敗。結局4月は4試合に先発し、1つも勝てませんでした。当然、相手はいずれも他球団の開幕投手です。

 僕には「せっかく開幕投手に選んでもらったのに……」という「あせり」が、心のどこかにあったのでしょう。

『覚悟』書影覚悟』(戸郷翔征、講談社)

 それまでの「ジャイアンツの開幕投手」「巨人のエース」像として、抜群のコントロールを武器に絶妙なピッチングを誇る菅野智之投手の頼りがいのある姿が頭にこびりついていました。知らず知らずのうちに「ああいうピッチングをしなければ」と、気負っていたのでしょう。毎試合、高い理想や好結果を求めすぎていたのかもしれません。

 もっと具体的に言えば、「質のいいボール」とか「完璧なコース」に投げることを求めすぎたのが逆効果になって、手元が微妙に狂いボール球が先行していたのです。

 あの阿部監督の「言葉」で気持ちが救われて、楽になりました。「強迫観念」が徐々に薄らいでいきました。立ち直った僕は、結局7回1安打3四球5奪三振の無失点で3勝目。

 キャッチャー出身の阿部監督ならではの的確なアドバイスをいただきました。あの言葉がなかったら、それ以降のシーズンも僕は立ち直れないまま、崩れていったかもしれません。