AI時代に求められる人事戦略とは

髙倉 経営戦略が変化する中で、人事には、事業ポートフォリオの変化に合わせて必要な人材を即座に特定し、内外のポテンシャルが高い人材に着目して次世代の後継候補を含めた分厚い人材プールをつくる機動力(アジャイル)が求められています。

 例えば、高血圧の薬に重点を置いていた製薬会社が、後発薬が登場したため事業ポートフォリオを変更し、がんや希少疾患の領域へと投資をシフトさせたとする。そういう場合に新領域で事業を担える人材が確保できているかどうかが将来に向けた事業、新しい企業価値を創出することを左右します。

 投資家も、変化の激しい市場環境下で新たな戦略を遂行できる人材プールが用意できているか、つまり人材ポートフォリオが描けているかどうかを厳しく見ています。

 このように、ますます事業戦略の変化が激しくなっている昨今は、「適所適材(戦略上必要なポジションを定義し、そこに最適な人材を配置すること)」は見つつも、一方でどのような変化にも対応できる多様な人材プールを構成し、チーム戦で競争力を強化することが必要な時代になったように思います。

 つまり、まさに、自身のチームのベンチのメンバーを拡充するという「ベンチ・ストレングス」を戦略的に構築することが求められているのです。

 多様な人材をプールしておけば、どのような戦略の変化にもアジャイルに対応できます。ここで言う多様性は、単なる性別、国籍、年齢などの属性による外見的な多様性を言っているのではなく、市場に新しい価値を創出するために必要な多様な考え方、経験、専門性を持った人材を意味しており、そのような人の集合は結果的に多様な属性になるということになります。

――どうすれば多様な人材をプールすることができるのでしょうか。

髙倉 シリコンバレーの例を挙げましょう。ある企業では、採用時から多様性を重視し、8人の合議制で面接を行います。なぜか。人間って、自分の好きな人、自分がやりやすいなと思う人しか採らない傾向があります。だから採用の権限を持つ人が1人だけだと、同じような集団、均一的なチームになってしまう。でも8人の合議制にすれば、多角的な視点で「タレントプール」をつくることができます。

 合議制で採用しているこのような企業では、タレントプールにどんな人材がいるのかがおのずと社内で共有されていますから、プロジェクトごとに本籍の所属部署での縦軸(所属)の業務遂行とともに、外部環境や市場のニーズにアジャイルに対応したプロジェクトベースの横軸での活躍の場をつくることができるわけです。

 これは、これからの人材育成の意味でも専門の軸を持ちながら複合的に視野を広げることができAI時代に価値を出す人材要件にも合致するところです。

――AIの普及によって仕事の定義そのものが変わろうとしています。

髙倉 その通りです。シリコンバレーの人事担当者に「AI人材とは」と聞くと、「もはやAI人材などというカテゴリーは存在しない」という答えが返ってくる。すべての職種でAIリテラシーは必須で、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)にも、AIリテラシーを持つことが要件として組み込まれています。

 AIに何をしてもらい、人間がどこで付加価値を出すかというそれぞれの職務、つまりジョブのアーキテクト(職務の再設計)ができる人でなければ、組織では業務をリードできないという時代になったように見受けられます。