AI時代にこそ問われる人的資本の価値

――働く個人はAI時代のキャリアをどのように考えていくべきでしょうか。

髙倉 AIによって定型的な事務作業が効率化され浮いた時間を、人的ネットワークの構築や対面での対話という「人間ならではの活動」に振り向けるべきです。

 シリコンバレーのテック企業がなぜあれほど充実したカフェテリアを持つのか。そこで人々が横のつながりを広げ、対話からクリエーティビティーを生み出しているからです。AIには捉えきれない、顔を見て話す中から生まれるものがある。それこそがこれからの価値の源泉になります。

 磨くべき資質として重要なのは、「センスメーキング」――五感や勘による瞬発的な判断力です。論理や知識の集積だけではAIに勝てません。正解のない場でどう判断するかという直感力と将来に向けた事業構想力、さらに、価値を生み出すビジョンを持つ力こそ、人間にしかないものです。

 AIが高度化すればするほど、人間ならではの力が際立ってくる。AIの使用が前提の時代だからこそ、この力をいかに鍛え、研ぎ澄ませられるかが個人の勝負どころとなります。

 学習方法についても、スキルは常に陳腐化するものと心得て、自ら問いを立て、知識をどう生かすかを考える「アジャイルラーニング」を習慣にしなければなりません。人事だけ、マーケティングだけといった一つの専門性に閉じず、横軸の経験を積む。そしてリベラルアーツ的な素養――哲学、倫理、人間とはそもそも何かという根底にあるものへの問いを深めておかなければ、AIを間違った方向に使ってしまいかねません。

――最後に、企業の人事担当者へメッセージをお願いします。

髙倉 人事には二つの大きなミッションがあると思っています。一つは、企業という「船」の航行を先導する――将来の事業戦略を見据えた人材戦略を構築し、「稼げる人事」として経営のパートナーとなること。もう一つは、「船の乗組員」であるすべての社員のエンゲージメントを高めることです。血の通った人事として、一人一人が力を発揮できる組織風土を育てる。この二つを両輪として回していくことが、これからの人事に求められていると思います。

 そのためにも、大前提として、人事こそ将来に向けたビジョンを掲げて、AIをうまく活用して人材(タレント)の育成・配置・活用の在り方を進化させることが、人事の使命として不可欠になっているのです。