カートは何の問題もなく正面ゲートを突破する。監視カメラ映像をチェックする人間ごと懐に入れておけば関係ない。刑務所の外には、手配済みの車が待っていた。エル・チャポは悠々と乗り込み、ハリスコ州を離れ、メキシコ国内へと消えた。

 結果、メキシコ政府は大恥をかくことになる。刑務所の職員や政府関係者70人以上が関与していた事実が明るみに出て、その多くが逮捕された。が、シナロア・カルテルのボスが逃げた事実を取り消すことはできない。

 この事件が象徴するのは、メキシコの腐敗の根深さだ。いくら警備を固めても、中の人間が金で動く以上、壁の高さや監視の数は無意味に等しい。こうしてエル・チャポは自由を取り戻し、シナロア・カルテルのボスとして再び君臨することになる。

麻薬カルテル連合の盟主
ガジャルドの暗躍

 ただし、この取材で知りたかったのは、エル・チャポではない。もう一人の麻薬王で、メキシコで王の中の王と称される麻薬王ミゲル・アンヘル・フェリックス・ガジャルドをはじめ、多くのカルテル関係者である。

 ミゲル・アンヘル・フェリックス・ガジャルド。

 エル・パドリーノ、あるいはエル・ジェフェ・デ・ジェフェス――ボスの中のボス。メキシコ初の主要麻薬カルテル、グアダラハラ・カルテルを築き上げただけでなく、メキシコ全土の麻薬取引を一手に支配した「麻薬カルテル連合の盟主」だ。彼の名は、メキシコとアメリカの麻薬戦争の歴史に深く刻まれている。

 1946年、シナロア州クリアカンに生まれたガジャルドは、若い頃は警察官としてキャリアをスタートさせた。しかし、その才能は裏社会でこそ開花する。1970年代から80年代にかけて、彼はコロンビアのパブロ・エスコバルと手を組み、アメリカへのコカイン密輸を一手に仕切った。メキシコ全土に張り巡らされた密輸ルートは、ガジャルドの緻密な計算と冷酷な戦略によって完成されたものだ。