魚類養殖業を支える
「生産の3要素」とは

 筆者は、世間にあふれる過剰な期待に危うさを感じます。そこで、魚類養殖の実態についてあらためて説明してみます。少々専門的になりますが、お付き合いください。

 アダム・スミス(1723~1790)やJ・S・ミルなどを始祖とする古典派経済学では、農業における生産活動で根本的に重要な「資本」、「労働」、「土地(漁業では漁場)」を「生産の3要素」と呼び、「3要素」が機能的に組み合わされることで何かを産み出す、つまり「生産力」が実現されると考えました。

 この考え方はいつの時代にも通用する普遍的モデルであり、現代の養殖業にも当てはまります。

 これら「3要素」がその社会に潤沢で安く手に入る状態なら、全体の生産力は大きく拡大します。しかし現実にはどれもが希少で、特に「労働」と「土地」は簡単に増やすことができません。

 そこで「3要素」の中で何がどれほど希少なのかという条件が各地の農業や漁業、そして養殖業の特徴や生産規模を決定してきました。また、これらの組み合わせ方が農業や養殖業の収益性を左右することになります。ここからは養殖業を念頭に話を進めていきます。

 養殖業における「資本」とは養殖活動に投資される資金と、それによって購入された資本財つまり漁船、漁具、漁労機器、養殖種苗や養殖餌料などが含まれます。「労働」とは人間の生身の労働で、肉体労働だけでなく知識や経験の活用など知的労働も含まれます。

「土地(漁場)」とは養殖が行われる水域環境のことで、地形、海流、水質、水温、水量、気象、そこに存在する様々な野生生物も含まれます。これら「3要素」を上手く組み合わせることができれば、養殖という技術体系によって水産食料を生産できるのです。

「市場」という4番目の要素が
養殖ビジネスの持続に欠かせない

 しかし現代は自給自足の社会ではなく市場経済の社会です。養殖業の目的は単に水産食料を生産することではなく、それらを販売して利益を得ることですから、「3要素」に加えて、生産物をお金に換える「市場」という4番目の要素が必要になります。