ここで言う「市場」は、顧客、消費者、需要と言い換えることもできます。養殖業で産み出された水産食料の「供給量と品質」は市場の「需要量と消費者ニーズ」とマッチングされ、その量的バランスとニーズ実現の度合いによって「価格」が決定されます。その価格と生産量の積が売上金額として生産力の一部である「資本」へと環流します。

 このサイクルが回転するたびに「資本」の総額が増加していくことを「拡大再生産」と呼びます。漁家が養殖業を営む目的はこのサイクルを上手く回転させて生計と家業を維持することであり、企業が養殖業を営む目的は「拡大再生産」を連続的に行うことにより、投資額を市中金利以上のレートで増殖させることです。

 もしこれが十分に実現、達成できている養殖業であれば新規参入が増加しますが、逆にこのサイクルが上手く回らなければ廃業が増え、養殖業という産業は持続し得ないことになります。

養殖業に携わる人材には
深い知識や愛情が欠かせない

 養殖業の経営がどれほど難しいのか、このモデルに沿って説明していきます。まず「3要素」のうち「労働」を確保することの難しさは人手不足の今の日本では誰でも分かります。しかし、単に数が足りないだけでなく、養殖業における「労働」はその質が問われます。

 養殖業は生き物を育てる生命産業ですから、飼育する魚の生活リズムや行動、気象や海象に合わせた柔軟で臨機応変な対応が必要で、生物に寄り添った行動が常に求められます。魚病や赤潮の発生時には特に機敏な対応が必要で、少しの気の緩みで飼育魚を全滅させてしまうことだってあり得ます。

 私はこれまで国内は北海道から沖縄、海外ではノルウェーやチリまで出かけ、生業として小規模に養殖を営む漁民から大規模に養殖を営む企業経営者までさまざまな養殖業者を訪れ、話を伺ってきました。

 彼らに共通しているのは、生命産業特有の生き物に対する深い知識と愛情、それに裏打ちされた責任感と勤勉さ、そして優れた情報分析力と判断力、行動力です。単純労働さえできればいいというわけでは決してないのです。