加えて、長時間の作業や深夜・早朝の作業も少なからずあります。休日が不規則になることが多く、生き物をほったらかして長期休暇を取るのも難しいでしょう。1年を通しての屋外作業は冷暖房完備のオフィスワークに比べて決して楽な労働ではなく、その分高い給料がもらえるわけでもありません。

 海上労働が多いため船舶免許などの特殊な資格、船酔いしないなど生来の資質も必要です。養殖業における「労働」とはかなり選択的で、現場で活躍できる人材はそもそも少ないのです。漁業ほどではありませんが、養殖業でも労働力確保はかなり困難です。

養殖業に適した漁場は
意外と少ない

 そして、「土地」つまり漁場も希少です。魚類には適水温があり、その範囲外だと死にはしなくとも十分に成長できません。養殖業は単なる飼育ではなく、なるべく短期間に大きく肥育するのが目的です。経営的観点からは、水温はかなり限定的となり適地は魚種ごとにごく限られます。

書影『日本漁業の不都合な真実』(佐野雅昭、新潮社)『日本漁業の不都合な真実』(佐野雅昭、新潮社)

 例えば寿司や刺身で人気の養殖カンパチは、1年を通して養殖できる漁場がかなり限られています。主産地の鹿児島でさえ、鹿児島湾の桜島より南側のごく狭い海域でしか通年して養殖することができません。他の場所でカンパチを養殖する場合は、鹿児島湾南部や奄美大島で育てた未成魚を仕入れて水温が高い夏の間だけ飼育し、冬が来る前に売り切るスタイルなのです。

 加えて、水温が適していても環境が適さない漁場があります。日本は台風の常襲地帯で、近年その勢いは増す一方です。強い風と高い波が海上の養殖生け簀を破壊するため、養殖は波風静穏な内湾や岸に近い島の裏側などにしか設置できません。さらに赤潮の被害があります。特にクロマグロは赤潮に弱く、赤潮が発生しにくい潮通しのいい場所でしか養殖できないのです。

 養殖とは海があればどこでもできるわけではなく、「採算性を確実にもたらす良い漁場」が求められ、適地は希少です。そしてそれは既に限界まで利用され、既存の技術を前提とすればもはや新規漁場はないと考えられます。成長のために漁場を拡大するには、新たな技術開発や大きな投資が必要なのです。