宗教の言葉から「怒りの扱い方」を学ぶ写真はイメージです Photo:PIXTA

怒りをコントロールする技術として知られる「アンガーマネジメント」は、現代の心理学から生まれたものだと思われがちだ。しかし実は、怒りという感情をどう扱うかは、人類が古くから向き合ってきた普遍的な課題でもある。古代インドの法典や仏教の経典、さらには東洋思想の書物にも、怒りに振り回されないための知恵が繰り返し説かれてきた。宗教の言葉から「怒りの扱い方」を学ぼう。※本稿は、文学者の横道 誠『やっぱり人生を支えてくれる宗教の言葉 二〇〇〇年の叡智から私が学んできたこと』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

怒りから生まれるもの
欲望から生まれるもの

 認知行動療法の技法として、とりわけ有名なもののひとつがアンガーマネジメントだろう。文字どおり、怒りの感情をどのように管理するかというテクニックだ。

 生きていると、腹立たしく感じることに多く襲われる。そのたびに怒りの感情に突きうごかされていたら、非常に疲れてしまうし、なにより厄介なトラブルに発展することも多い。

 紀元前2世紀から紀元後2世紀にかけて成立したとされる『マヌ法典』は、バラモン教やヒンドゥー教の重要な法典だが、これを読みながら私は、カースト制度を肯定する内容が延々と記されていることに打ちのめされてしまった。あまり良い気持ちのする読書体験ではなかったが、王に対する忠告を記したつぎの一節は心に残った。

 欲望(カーマ)から生じる十の悪徳、怒りから起こる八の悪徳――悲惨な結果に終わるこれらのものを努めて避けるべし。
 なぜならば、欲望から生じる悪徳に耽る王は実利(アルタ)と正しい生き方(ダルマ)、怒りから生じる悪徳に〔耽るときは〕自ら〔を失う〕からである。
 狩猟、賭博、昼寝、誹謗、女、飲酒、三種の歌舞演奏(歌、踊り、楽器演奏)、〔功徳を積むことと無関係な〕意味のない旅行は欲望から生まれる十のものである。
 陰口、凶悪犯罪、裏切り、嫉妬、名誉毀損、財物を駄目にすること、言葉による暴力、暴行は怒りから生じる八のものである。
(渡瀬信之(訳注)『マヌ法典』、平凡社、2013年:P220-P221)