今回の円安は従来とは違う!?
「有事のドル買い」、地政学リスクなど複合要因

 まず注目すべきは円安だ。

 近年の円安は、主として日米金利差の拡大によって説明されるものだった。

 FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ抑制のために金利を引き上げる一方で、日銀は低金利政策を維持した結果、ドル建て資産への投資が有利となり、円売り・ドル買いが進んだ。

 しかし、今回の円安は、金利差だけの要因によるのではない。より重要なのは日本経済の構造的変化だ。

 かつて日本は貿易黒字国であり、円には自然な上昇圧力があった。しかし現在では、エネルギー輸入の増加などによって貿易収支は赤字化している。その意味で円はもはや「強い通貨」ではなくなっている。

 これに加えて、今回特有の要因として「有事のドル買い」がある。

 戦争やテロ、国際的紛争、災害などのリスクが高まった際に、最も安全で流動性の高い資産とされる米ドルに、世界中から資金が避難するという現象だ。

 ドルが買われる結果、ドル高となる。その一方で円は売られ、円安が進む。

 今回の場合は、特にこの効果が大きい。アメリカはホルムズ海峡が閉鎖されても自国内で原油を産出しているため、エネルギーの供給面で危機的な状況に陥ることにはならない。もちろん、ガソリン価格などが値上がりするという問題はあるのだが、経済が立ち行かなくなるというような問題ではない。

 それに対して日本の場合には、原油輸入の9割を中東に依存しているため、ホルムズ海峡閉鎖の影響が極めて大きい。

 このように、中東情勢の変化によって、日本では問題が起きるがアメリカでは起きないという非対称性が極めて大きくなった。これが円安の大きな原因であることは間違いない。

 このように今回の円安は、(1)日米金利差(2)貿易収支構造の変化(3)地政学リスクという複数の要因が重なった「構造的円安」である。したがって、為替介入のような短期的措置によって簡単に是正できる性質のものではない。

輸入インフレ加速、「悪い円安」が
実質所得の低下をもたらす

 円安は輸出を促進し、経済にプラスの影響をもたらすと考えられてきた。しかし、現在進行している円安は「悪い円安」である。輸出数量の増加よりも、輸入価格の上昇によるコスト増の影響が大きく、企業収益や家計の実質所得を圧迫するためだ。

 とりわけエネルギー価格の上昇は、ガソリン価格や電力料金を通じて広範な物価上昇を引き起こす。これに円安が加わることで、輸入インフレはさらに増幅される。

 その結果、名目賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、実質賃金は低下する。消費者マインドは悪化し、経済全体の基調は弱まる。

 重要なのは、このインフレが、供給制約に起因する「コストプッシュ型」であることだ。この場合、需要刺激策はインフレを悪化させる。

 政府は今回のガソリン価格急騰に対して、補助金を用いた価格引き下げ政策を復活させて対応している。しかし、この政策は価格シグナルをゆがめ、需要を過度に維持するという問題を抱えている。

 供給が制約されている状況で価格を抑えれば、需給の不均衡が拡大し、その結果、財政負担が増大する。

 必要なのは、価格を抑えることではなく、影響を受ける家計や企業を直接に支援することだ。これによって価格メカニズムを維持しつつ、社会的弱者を保護することが可能となる。