「高圧経済」からの転換を
需要抑制でインフレ圧力緩和不可欠

 現在のような供給ショック下で、財政拡張や減税によって総需要を刺激すればどうなるか。需要は増加するが、供給は制約されているため、価格上昇圧力は一層強まる。その結果、インフレ率が高まり、賃上げや価格転嫁が加速し、インフレが自己増殖して持続する可能性がある。

 さらに、インフレ率の上昇は実質金利を低下させ、円の魅力を一段と低下させる。これがさらに円安を招き、輸入物価を押し上げるという悪循環、すなわち「円安とインフレのスパイラル」に陥る。

 こうした状況を防ぐためには、総需要を抑制し、インフレ圧力を緩和することが不可欠だ。具体的には財政支出の抑制や減税の見直しが求められる。

 高市政権は、これまで「高圧経済」を標榜してきた。減税や財政支出拡大によって総需要を増やすという政策だ。しかし、ガソリンなど石油関連製品の価格高騰と円安という事態になったいまでは、この政策は逆効果となり得る。

 いま求められているのは総需要の抑制、金融政策の正常化、そしてエネルギー政策の再構築だ。

 円安と資源高が同時に進行する現在の状況は、日本経済にとって重大な危機だ。これを乗り越えるためには、従来の政策枠組みを見直し、現実に即した対応を取ることが不可欠だ。

 同時に、日銀は金融政策の正常化を加速させる必要がある。低金利環境は、これまでの円安の重要な一因となってきた。政策金利の引き上げは、国内のインフレ抑制だけでなく、為替の安定にも寄与する。

 もちろん、急激な利上げは景気に悪影響を及ぼす可能性がある。しかし、現在のようにインフレと円安が同時進行する局面では、金融引き締めを躊躇するコストの方が大きい。

エネルギー安全保障の再構築で
原子力の役割再検討も

 今回の危機は、日本のエネルギー安全保障の脆弱性を改めて浮き彫りにした。原油輸入の大半を中東に依存する日本のエネルギー源構造は、地政学的リスクに対して極めて脆弱だ。有事に対応した安定供給ということは、これまでも意識されてきたことだが、その重要性が今回改めて認識された。

 したがって長期的には、エネルギー源の多様化が不可欠だ。再生可能エネルギーの拡大は重要な施策だが、その変動性などを考慮すれば、それだけに頼るのは難しい。

 安定供給を担う電源としての原子力の役割を再検討する必要があるかもしれない。またLNG調達先の多角化や、省エネルギーの推進も重要な課題だ。

 今回の危機に対処するという短期的な課題だけでなく、長期的な観点から、日本のエネルギー政策を再検討する必要性が高まっている。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)