井上:まさに、伊崎が「死を覚悟したとき=未来が見えたとき」に「父になる」んですよ。伊崎だけでなく、現場に残った人たちが家族に送ったメールは、「今までありがとう」「しっかり勉強して立派な大人になれ」など、特攻隊員の遺書そのもので涙を誘います。

坂元:伊崎とその父・敬造とのつながりもぐっときましたね。出稼ぎ労働者だった敬造は、福島に原子力発電所ができたことで、東電の関連会社に定職を得ることができた。息子の利夫は東電の本体に就職してプラント・エンジニアになり、立派に出世した。

 福島第一原発から半径10キロに避難指示が出た際、敬造は「利夫がなんとかしてくれる」と言います。命懸けで現場を支えている息子を信じるしかない。期待と信頼の混ざった言葉だと思いました。

井上:伊崎にとって、イチエフは、人生そのものであり、故郷と不可分のものなのですよね。故郷を守るためには、原発を守らなければならない。子孫に残していかなければならない。

大事故の責任追及と
現場の人への敬意は別物

坂元:話を戻すと、遠隔ベントが成功した結果、一号機に立ち入ることができなくなり、周辺には放射能をまき散らしてしまった。そんななかで若い所員が「俺たちがここにいる意味ってあるんすかね」と言い出す。

 現場を放棄するのか──騒然とする場で伊崎が切々と話すセリフが、この映画の核心であり、まさに特攻文学(編集部注/誰かのために命を投げ出すシーンのあるコンテンツのことを筆者らはこう呼んでいる)かなと。

「俺たちがここから退避したら、この発電所一帯すべてを放棄することになるんだぞ。避難している人たちは俺たちになんとかしてほしいという思いを込めて、自分たちの家に背中を向けたんじゃないのか。俺はここで生まれてここで育って、何が何でも守りたいんだ。(中略)最後に何とかしなきゃいけないのは、現場にいる俺たちだ。ふるさとを守るのは俺たちの手にかかっているんだ。だから俺はここを出るわけにはいかない。原子炉の制御を諦めちゃいけない」