巨大宗教 連鎖没落#16Photo:AP/AFLO

2011年の福島第一原発事故以降、地元福島県の人々は、放射能と被ばくを巡るさまざまなデマ、フェイク報道、風評被害の類いに悩まされてきた。そして今年8月24日に開始され9月11日に完了した第1回目のALPS処理水(以下、処理水)の海洋放出を機に、福島は再びネガティブな言説に覆われ始めている。その元凶は何か。原発事故以降、福島を恣意的におとしめるようなメディアや政治家、識者の言動、ネットでばらまかれる科学的裏付けのない流言飛語の類いをウオッチし続け、適切なデータを基にそのトンデモぶりと危険性に警鐘を鳴らしてきた福島県在住のジャーナリスト林智裕氏は「伝統宗教」の影を指摘する。特集『巨大宗教 連鎖没落』(全20回)の#16では、『はじめての福島学』(イースト・プレス)の著者で社会学者の開沼博・東京大学大学院准教授との対談をお送りする。(構成/ライター 根本直樹)

原発処理水のフェイク情報
伝統宗教が拡散の元凶の一つに

開沼氏 処理水の海洋放出はメディアでも大きく報じられ、それに反発する人々の声も盛んに取り上げられています。林さんは、現地の反応をどう見ていますか。

林氏 実際、否定的反応はほとんど感じられません。むしろ「(海に)やっと流してくれたか」と言う人も少なくない。ただ、日々の暮らしに追われる一般の人々の多くは、あまり大きな関心を持っていないのが現状です。

林 智裕・ジャーナリスト林 智裕●ジャーナリスト
はやし・ともひろ/1979年生まれ。福島県出身・在住のジャーナリスト。原発事故、処理水海洋放出などを巡るデマや風評の問題を追い続ける。著書・編著に『「正しさ」の商人』(徳間書店)、『東電福島原発事故 自己調査報告 深層証言&復興提言:2011+10』(徳間書店)、『福島第一原発廃炉図鑑』(太田出版)。

開沼氏 処理水放出前は、これによって風評被害が生じ、特に漁業関係者への甚大な影響が出るのではないかと懸念する声も大きかった。

林氏 地元の鮮魚店や漁業関係者に聞いても、当初不安視されていた海産物や加工品の買い控えはほぼなく、今のところ、大きな落ち込みはないということです。

 もちろん中国による輸入規制の影響は出てくるでしょうが、それを上回る応援の輪が広がっている。例えば、いわき市のふるさと納税への申し込みがすでに昨年の8倍になっています。返礼品の大半は処理水がまさに放出された海から取れた常磐ものの海産物。これを見ると、少なくとも商業的、経済的には今の時点では大きな風評被害は起きていないといえます。

開沼氏 しかし、一方で処理水を巡るデマ、フェイク情報の類いはSNSを中心に拡散されている現状があります。林さんはその元凶の一つとして「伝統宗教」を批判されていますが、どういうことでしょうか。

林氏 11年の原発事故以降、伝統宗教には何度か失望させられる出来事がありましたが、今回、処理水を巡る彼らの対応を見て、その思いは一層強くなりました。一部の過激なカルト宗教の言動というならまだ分かるのですが、日本を代表する著名な伝統宗教の団体が、仏教、キリスト教を問わず、こぞって科学的根拠のない言説を社会に向けて堂々と発信し、福島を不当におとしめている事実にはあぜんとするしかありません。

開沼氏 何があったのですか。