井上:危険に身をさらすのは若手ではなくベテランに限定すること。現場を死守する職員たちのなかで、若手の命を守る判断は3回出てきます。最初は坂元さんがおっしゃった手動ベントの人選のとき。次いで、危険度が増す中央制御室からより安全な免震棟に退避させるとき。最後に、最少人数だけ残して2エフ(福島第二原発)へ退避させるときです。

 先の大戦では逆で、「危険に身をさらすのは若手から」だったことから、戦争指導者への不信感が高まりました。多くの若い命を粗末に扱った一方で、軍部の指導者たちの多くは戦後まで生きのびたからです。

坂元:強く印象に残ったのは、吉田所長が「必要な人員を残して全員退避」を宣言したときのシーンです。

 伊崎の部下である若い職員たちが自分たちも残ると食い下がるのに対し、総務の浅野(安田成美)が「あなたたちには第二、第三の復興があるのよ」と声をかけます。伊崎も「俺が死んだらな、本田、おまえが来んだよ。本田が死んだら山岸が、小宮が、宮本が来んだ。いいな?」と言い含める。

 死に直面するのはベテランでいい、若い者は未来を築けと。彼らを退避させるための方便ではなく、命のタスキを繋ぐための遺言だった。

助けてもらった若者が
命のタスキをつないでいく

井上:ベテランが率先して危険に身をさらして、若手を生かすのは、彼らに未来を託すためです。ベテランから命のタスキを受け取った若手は、自分がベテランになったとき、有事にはやはり身体を張って、次の世代にタスキを繋いでくれるでしょう。

「勇敢な父祖たちの子孫である」と思えばこそ、自分もまた「子孫にとって勇敢な父祖」であろうとするのです。

坂元:「父になる」(編集部注/誰かのために命を懸ける特攻的なシーンで感動するには、「未来」「自発的な行動」「父になる」「祖国の想像力」の4つがキーワードになると筆者らは主張している)要素もしっかり入っているんですよね。

 伊崎は、娘の恋人が「16歳も上のバツイチ子持ち」であることが気に食わず、結婚に反対していた。そりゃお父さんは反対するよと思いますけれど、現場で事故対応の手を尽くした後、娘にメールを送ります。「お前の人生だ、お前の好きなように生きろ。お父さんは、応援している」と。全日本のお父さんが泣いただろうなあ……。