その結果は、明確であった。運動群では無再発生存が有意に延長し、再発や死亡のリスクは約30%低下した。さらに全生存率も改善し、8年時点で90%対83%と、7ポイントの差を示したのである。

 とくに再発の抑制と、新しい別のがんの発生の減少が顕著であり、運動が体力維持にとどまらず、治療効果に直接寄与することが、高いエビデンスレベルで証明されたのだ。

 この試験は、運動が「万人に開かれた予防薬」であるのみならず、術後サバイバーシップの質を高め、再発を防ぐ実践的治療手段でもあることを世界に示した意義深い報告であった。

1日30分程度の早歩きで
ほとんどの大病を予防できる

 では、私たちは実際にどれくらい体を動かせばよいのだろうか。WHOは、成人では週150分の中強度運動、または75分の高強度運動を推奨している。これは1日30分程度の早歩きに相当し、心血管疾患・糖尿病・がん・認知症などの幅広いリスクを下げることがわかっている。

 こうした時間ベースでの推奨に加え、以前から「歩数」というより具体的な行動指標が注目されている。

 2025年にシドニー大学を中心とした国際共同研究チームが英医学誌『Lancet Public Health』に発表した解析によれば、1日7000歩前後の歩行で、死亡リスクが明確に低下することが示された。

 対象となった35コホートの57研究からのデータでは、2000歩しか歩かない場合に比べて死亡リスクは47%低下し、心血管病死亡47%、がん死亡37%、認知症38%、うつ症状22%、2型糖尿病14%と、多面的な効果が確認されたのである。従来の「1万歩」という数字には明確な科学的根拠が乏しく、7000歩程度の現実的な目標でも十分な健康効果が得られることが、最新研究で裏づけられた。

 とくに高齢者ではこの効果が顕著で、無理のない範囲で続けられる歩数習慣こそが、長寿と健康の鍵となる。

 そこで、ヒポクラテスの言葉を改めて思い起こしたい。

《歩くことは人間にとって最良の薬である。──ヒポクラテス》

 この古代の直観が、21世紀の医学によって再び証明されつつある。