やさしい社員は本当にやさしいか?
怪しい「パーソナリティ」という考え方
心理学の用語で最も有名なものの1つが「性格(パーソナリティ)」という言葉だろう。パーソナリティの訳語は、性格、人格、人柄、人となりなど様々だが、これらは全て、研究者以外の人々も日常生活の中でよく使う言葉だ。
もちろん、ビジネスでもよく使う。
「彼の性格から言って、この仕事は難しいだろう」
「自分の性格がこの仕事に向いていると思い、志望いたしました」
など、自分や部下のパーソナリティと仕事内容との相性について、考えることは多いだろう。
しかし、このパーソナリティという考えは、実は怪しいのだ。
パーソナリティのもともとの定義は、「状況にかかわらず、その人にある特定の行動傾向をもたらす内的な要因」というものだ。
たとえば、「彼はやさしい」というパーソナリティがあるとする。しかし、彼の「やさしさ」は目に見えるものでも掴めるものでもない。その「優しい性格」は、彼の様々な行動から受ける印象を要約したものに過ぎない。
たとえば、部下が困っているときに相談に乗る、取引先の担当者の誕生日を覚えていて贈り物をあげる、などの行動を誰かが目にし、「彼はやさしい人だなあ」という印象を持つ。そのようなケースが何回か起こると、「彼はやさしい性格だ」という評価が定着する。
しかし一方で、人間の行動は状況によって、かなり左右されることがわかっている。彼のやさしい行動は、もしかすると「部下の面倒を見ることで上司受けをよくする」「取引先の心証を良くしてビジネスにつなげる」などの目論見があってやっているのかもしれない。