一方で、GLP-1薬ブームはさまざまな社会問題も引き起こしました。本来は医学的な適応を慎重に判断して使うべき薬ですが、必要性の低い人が美容目的で求めたり、価格や保険適用の違いによって健康格差が生じたりしています。さらに、世界的に需要が供給を上回った結果、偽造品や成分・品質が確認されていない未承認薬が流通する事態も起きました。

GLP-1は自然に分泌されるホルモン

 そもそも、GLP-1とは、特別な化学物質ではなく、私たちの小腸から自然に分泌される「天然の食欲ブレーキホルモン」だと大西さんは説明します。

「GLP-1は、食事を取り、食べ物の栄養素(糖分や脂肪分など)が小腸に到達して『L細胞』を刺激することで分泌されます。腸から脳に『お腹がいっぱいだ』というシグナルを送るのと同時に、胃腸の動きを緩やかにして消化のスピードを遅らせることで、満腹感を長持ちさせるのです」

 膵臓のβ細胞に働きかけ、血糖値を下げる中心的ホルモンである「インスリン」の分泌を促す作用もあります。ただし、自然に分泌されるGLP-1には数分程度で分解されてしまうという弱点があります。

 このホルモンが長持ちするように、人工的に構造を模倣し強化したのが「GLP-1薬」です。

 糖尿病の多くを占める2型糖尿病は、インスリンの分泌低下とインスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる状態)の2つの要因が重なって発症します。GLP-1薬は現在、日本でも2型糖尿病、さらに肥満症の治療薬として承認されています。

 FDA(アメリカ食品医薬品局)で初めて承認されたGLP-1薬は、2005年に承認された「バイエッタ(一般名:エキセナチド)」です。アミリン・ファーマシューティカルズによって開発され、米製薬大手のイーライ・リリー(以下、リリー)が商業化(販売)パートナーとして展開に関与しました。

 その後、デンマークのノボ・ノルディスク(以下、ノボ)は、2型糖尿病の治療薬「オゼンピック」を発売。高い体重減少効果と利便性の向上に成功した治療薬で、爆発的なヒットとなりました。現在、GLP-1薬市場を主導するのは、ノボとリリーの2大製薬メーカーです。