「慢性腎臓病、変形性膝関節症など多岐にわたる疾患、さらに13種類の肥満関連がんのうち10種類のリスク低下が示されたとする研究報告もあり、『人類史上初の長寿薬になるかもしれない』と期待する一部の科学者もいます」
慢性的な炎症の軽減に関与?
では、なぜGLP-1薬がこれほどまでに全身の病気に効くのでしょうか。
その最大の鍵となるのが「慢性炎症」の抑制効果だと大西さんは指摘します。炎症は本来、体がケガや感染から身を守るために免疫が働く自然な反応です(急性炎症)。これが弱い強度のまま全身で持続する状態が「慢性炎症」です。
慢性炎症はじわじわ体を傷つけ、心臓病、高血圧、2型糖尿病、脂肪肝、がんなどの根本的な原因となります。
「詳細はまだ解明されていませんが、GLP-1薬は慢性的な炎症の軽減に関与しているのではないかと言われています」
一方、副作用として比較的よく見られるのは、吐き気や便秘などの消化器症状です。多くは軽度~中等度、時間の経過とともに軽減することが知られています。まれではありますが、胆石や胆のう炎、膵炎、腸閉塞などの重篤な副作用が報告されているほか、甲状腺髄様がんや多発性内分泌腫瘍症候群(MEN2)の既往がある場合には使用が制限されます。
大西さんが懸念を示すのが、美容目的の安易な使用による「やせすぎ」の危険性です。
不必要な過度の減量は、脂肪だけでなく筋肉量も落とし、骨粗鬆症の進行リスクもあります。急激な減量により顔の脂肪が減少し、しわやたるみが目立つ状態になることがあり、一般に「オゼンピック・フェイス」と呼ばれることもあります。
「アメリカで、顔が老け込んで見えるようになり、美容外科に駆け込む人たちが増えたという問題も論文で報告されています。逆に老化を早めて体を痛めつける結果になるのです」
GLP-1薬は、肥満や生活習慣病に悩む多くの人に新たな選択肢をもたらしました。ただし、「魔法の薬」ではありません。かかりつけ医と二人三脚で自分の体と向き合い、正しく活用することが、その真価を引き出す鍵となります。
(監修/内科医・米ボストン在住 大西睦子)







