「あなたのため」が
子の境界線を壊す

 そしてたいていの場合において、子どもとの間にある境界線を踏み越えてくる親は、「あなたのため」などの言葉でそれを正当化します。あるいは「自分を怒らせるのはお前がわるいからだ」と子どものせいにしたり、子どもに相応しくない役割(家族のケアや愚痴のきき役など)を要求しながら「助かるよ」「頼りになるよ」と褒めて認めるような言葉を言ったりしてくることもあります。

 つまり、境界線を越えることが子どもにとって必要なことであり、正しいことであり、また子どもに原因があると正当化するのです。なぜ親がこのような言動をするのか、どのような言動が境界線の侵害にあたり、どう対処すれば良いかは、このあとの章で詳しく説明しますが、バウンダリーの侵害は、どのような言い訳をもってしても正当化できるものではないことだけは確かです。

 たとえばスマホの中身を勝手に見る、友人関係を全部把握してコントロールしようとする、位置情報を常に把握しようとするといったプライバシーを侵害する親は、多くの場合「心配」を理由に挙げます。「トラブルに巻き込まれることが心配」だから、そのトラブルを未然に防ぐために、プライバシーを侵害することはやむをえず、必要で、「子どものため」になるという考えです。

子が話せないのは
親に原因がある

 しかし、もし親と子どもとの間で「心配なことがあればちゃんと相談する」「もしトラブルに巻き込まれたらすぐにSOSを出す」という関係ができていれば、プライバシーを侵害してまで、トラブルの心配をする必要はないはずです。

『自他の境界線を育てる 「私」を守るバウンダリー』書影自他の境界線を育てる 「私」を守るバウンダリー』(鴻巣麻里香 ちくまプリマー新書、筑摩書房)

 つまり、親が子どもとの間で、「ちゃんと心配事を話してくれる」という信頼を土台にした関係をつくれていないことが、境界線を踏み越える原因であり、それを正当化する原因のひとつです。

 そして子どもが親に「困ったときに話せない」と思っている場合、その原因は、だいたいにおいて親の側にあります。親と子どもとでは、持っている「力」に大きな差があるからです。子どもは親の保護がないと生きていくことが難しく、未成年である限り親の許可なく行えることに制限がかけられています。

 つまり、親の言葉や行動が子どもに与える影響は、その逆よりもずっと大きいのです。親が子どもの信頼を損なう言動を続けることで、子どもは親に大切なことを話せなくなります。

 その結果、親の中に「話してもらえない」ことへの不安が生まれて、子どもとの間の境界線を踏み越えて子どもの行動を監視したり、コントロールしようとするのです。親は自分で、「子からの信頼を損なう言動」を行っているにもかかわらず、それを理由にしてプライバシーを侵害してもよいと正当化しているわけです。