採用面接でキャリアが詰んでいく人の典型は、会社の看板だけに依存して仕事をしてきた人です。
たとえば、大手メーカーで20年以上にわたって部長として高い評価を受けてきた人などに当てはまります。転職を意識したときになって初めて会社の仕組みの外で通用するスキルが何もないことに気づくのです。
会社の商品が強かったから売れた。会社のブランド力があったから取引先が話を聞いてくれた。その組織の中で動いていたから成果が出た。「あなたは何ができますか」と問われると、答えられない。その事実に愕然とするのです。
20年以上、社内での評価は高かった。しかし評価されていたのは、会社という仕組みの中で機能する自分であって、個人としての専門性や実績ではなかったのです。そのことに、転職を考えるまで気づかなかったという人が少なくありません。
採用の現場では、候補者の専門性を測るために、必ずある質問をします。
「応募いただいたポジションで、あなたに1から10まで任せられる仕事は何ですか」というものです。
候補者の実力を測る問いとして、これが非常に有効です。
ここで「チームをまとめることが得意です」と答えた人は、まず評価されません。それは誰でも言える抽象的な自己申告であって、その人固有の専門性を示していないからです。
一方で、たとえば、「異なる部門間の利害が複雑に絡む調整プロジェクトを、どんな内容でも期限内に完了させるメソッドがあります。例えば今の会社では……」と言い切れる人は採用担当者の関心を引きます。このように、50代でキャリアが花開く人の共通点は、30代から40代のうちに個人名で仕事ができる状態を意図的に作り上げてきたことです。
この分野ならあの人、この問題が起きたらあの人に頼もうと、周囲から認識されるような具体的な専門性と実績を積み重ねてきたのです。社内だけでなく、業界や市場の中でもそう評価されていれば、なおさらそれは強力な武器になります。
もう1つ、キャリアが「詰む」人と「花開く」人の決定的な違いがあります。それは学習を継続しているかどうかです。
前者は50代になる前に新しい知識の習得をやめてしまいます。今の仕事をこなすには十分な経験があるので、改めて学ばなくてもやっていけるのです。
対照的に、花開く人は「詰む」前から本格的な学び直しを始めます。すでに現場での実践知はある。そこで満足せず、その知識を体系化し、理論的な裏付けを得るために学問に戻ったり、隣接する領域へと知識を広げたりするのです。
私の知り合いでも、人事の実務を長年担ってきた人が45歳から心理学の大学院に進学し、50代で大企業から引く手あまたの人事コンサルタントになっていたりします。分野を問わず、そういった例は決して珍しくありません。
50代で慌てないために
30、40代でしておくこと
では、30代から40代で具体的に何を準備すればよいのか。重要なことが3つあります。
第一に、自分の専門性を棚卸しして、それが外でも通用するかどうか確かめることです。
今の職場では評価されていても、それがよそでも通用するかどうかは別の話です。業界団体の集まりに参加するなど、社外のコミュニティーも活用して、外の評価を積極的に獲得しにいく。越境学習という言葉がありますが、自分の属する組織の外に出て学び、評価される機会を意識的に作ることが、専門性を社会的に検証するきっかけになります。社内の評価と社外の評価のギャップを早い段階で認識することが大切です。
第二に、2〜3年に一度は転職エージェントと面談し、自分の市場価値を客観的に把握することです。
転職するつもりがなくても、面談することには大きな意味があります。「あなたのスキルだと希望の条件では難しい」と言われれば、自分に何が足りないかが具体的にわかりますし、今の職場でどんな経験を積むべきかを逆算できます。
定期的に鏡を見るように、外部からの視点を得ることが、キャリア形成における重要なリスクヘッジになります。面談の結果、今の会社が自分にとって最良の選択肢だとわかることもあり、それもまた大切な情報です。
第三に、人的ネットワークを計画的に広げることです。労働政策研究・研修機構の調査によれば(「65歳以降の就業率は、64歳以下での転職経験のある人のほうが高い」(中高年齢者の転職・再就職調査))、中高年の転職成功のうち約4割は、縁故や知人の紹介によるリファラル採用です。年齢が上がるほど、転職エージェントを通じた公開市場での勝負は難しくなります。採用側には年齢フィルターがかかり、第三者からの評価が定かではない人材を上級管理職として採用することのリスクが大きすぎるからです。
だからこそ、40代までに信頼できる人的ネットワークを広げておくことが、50代以降の選択肢の幅を左右するのです。
30代から40代でこの3つに意識的に取り組んできた人は、50代を迎えたときに、キャリアの選択肢を持てることになります。
転職せずに今の会社に残る場合でも、自分にピッタリな会社で能動的に働くことができます。一方、30〜40代に何となく仕事をしただけの人は、限られた選択肢でキャリア形成せざるを得ません。50代以降のキャリア格差は、30代からの日常の仕事や学習の中に、すでに種が蒔かれているのです。








