10人全員に「美味しい」と言ってもらうのが、商売の理想だと思うかもしれません。でも、少し考えてみてほしいのです。「10人中10人」が、食べた瞬間に「これはうまい!」と唸るような味というのは、一体どういう味でしょう。

 例えば、最高級の霜降り肉を使った「すき焼き」。あれはたまらなく美味しいです。食べた瞬間は「すごく美味しい」と感じる。でも、それは味が濃いからです。味が濃いものは、強烈なインパクトがある代わりに、すぐに飽きてしまいます。

本当に美味しいものは
必ず飽きる

「明日も、明後日も、週に2回も食べたいか?」と聞かれたら、どうでしょうか。毎日はちょっと、くどいかもしれません。「たまに食べるからいい」のです。本当に美味しいもの、インパクトが強いものというのは、必ず飽きるのです。私たちが目指しているのは、そういう「ハレの日」の特別なご馳走ではありません。

 日高屋はあくまでも「ラーメンは大衆のもの」という考えが基本ですから。お客様に、毎日でも食べてもらえる味じゃなければいけない。

 以前、牛丼チェーンの社長さんと話したときも、まったく同じことを言っていました。「神田さん、あんまり『うまいな!』という味付けには、あえてしないんだよ」と。

 あえて「完璧」を目指さず、強烈なインパクトはないけれど、どこかホッとする。そういう味だからこそ、お客様は「ああ、今日も日高屋にいくか」と、週に1回、2回と、飽きずに繰り返し足を運んでくれるのです。

 もちろん、まずくて吐き出すようじゃ論外ですよ(笑)。それは「6割」にも入りませんから。

マニュアル化できないと
味にばらつきが出る

 私がその「6割の哲学」にたどり着いたのは、手痛い「失敗」から学んだことです。

 創業以来出店していた来々軒が20店舗ほどになった頃、各店舗からクレームが続出するようになってしまいました。来々軒は中華料理で、メニューの種類が多すぎて、マニュアル化できなかったために、店舗が増えるにつれて味にばらつきがでるようになってしまったのです。

 それで、調理をマニュアル化できるラーメンの専門店を開くことにしました。全国のご当地ラーメンが食べられるという趣向で味にこだわった「ラーメン館」という事業を立ち上げたのです。出だしは好調でしたが、徐々に客足が遠のいてしまった。

 お客様というのは、本当に賢いです。私たちの浅はかな考えなんて、すぐに見抜いてしまったのです。「本物の味を追求できていない」と。

 それもそのはずです。ベースになっているスープは、実は全部同じものだったのですから。最後の「タレ」を変えただけだったのです。当然、お客様はあっという間に離れていきました。

 この失敗で、私は痛いほど学びました。店のオペレーションをある程度マニュアル化して「安くて、そこそこ美味しい味」を、真面目に追求すること。そうして生まれたのが「日高屋」なのです。