善意が裏目に出た
高級旅館での失敗

 日本には数々の名門、またはクラシックと称されるホテルがあり、あえて旅館や古民家に泊まり、他国では味わえない経験を良しとする訪日客が増加しているのは確かである。

 だが、それがグローバル・スタンダードなサービスを提供するホテルが持つロイヤルティに勝るかどうかはわからない。

 筆者にも苦い経験がある。海外から大切なお客様をお迎えし、東京と松山での商談後、よかれと思い、道後温泉にある温泉かけ流しの露天風呂が有名な純和風の高級旅館を案内したことがある。

 ところが、くだんのお客様は、備え付けの浴衣に慣れず、松茸をはじめ季節の素材が並んだ会席料理にはほとんど手を付けず、最大の売りである露天風呂にも入ることなく、部屋のシャワーを浴び、ルームサービスを取って食べ、そのまま寝たという。

 彼にとって、着慣れない浴衣、普段とは違う食事、シャワーだけでなく露天風呂が揃った道後温泉の高級旅館よりも、普段使い慣れている松山市内のグランドホテルやビジネスホテルのほうがよかったのだ。

 筆者が事前にお客様の要望を伺っていれば回避できたかもしれないが、我々日本人がよかれと思ったサービスや言動が、海外富裕層などインバウンドにとっては押し売りになっているケースがあるのかもしれない。

 米国のトランプ大統領が、訪問先でもハンバーガーやステーキを好むように、訪問先の食事や習慣、文化にさして興味がなかったり、食あたりや「外れ」を避けたり、体調管理のために、あえて普段の食生活などのルーティンを守って過ごす人は多い。

 海外富裕層やインバウンドに限った話ではないが、特に訪問がビジネスを主とするものであれば尚更な印象だ。