ところが安泰な生活を構築できたというのに、ロビンソンはまたもや脱出願望にかられてしまいます。さすがに本人も気づかざるをえません。これが自分の業なのだと。
《私という存在はその人生のどこを切り取っても、あの人類共通の普遍的な病──人間の不幸の大半がそこに起因する病、つまりは神や自然が定めた場所にじっとしていられないという病──を患う人々に、ひとつの教訓を示している。その昔、父の賢明な助言に背いたことがいわゆる原罪としてあり、その後も同種の過ちを積み重ね、私はとうとう今のような惨めな境遇へ陥った。》
惨めと言いながらも、ロビンソンはもはや後悔から解き放たれています。
「けれども若いうちはこのような馬鹿をやるものだ。その愚かしさがわかるようになるのは普通、年を重ね、経験を積んだ後のことにすぎない」と諦めがついたのです。
「人類共通の普遍的な病」は大げさかもしれませんが、今いる場所に退屈し、移動や変化を渇望する気持ちは誰にでもあるものです。
その願望がとりわけ強い人は、過去を悔やんでも仕方がないのでしょう。親に言われるままに地元で堅実な仕事についたとしても、毎日同じ時間に同じ場所に通うことに耐えられず、辞めてしまっていたかもしれません。
新しい挑戦が若かりし頃を
思い出させてくれる
著者のダニエル・デフォーは、商売だけでは飽き足らず、過激な政治パンフレットを発行してさらし台の刑に処されたり、監獄に収容されたりと、波瀾万丈な人生を送った人物です。
デフォーもまた、タフな環境を生きのびることに生の充実を感じるタイプの人間だったのではないでしょうか。「若いうちはこのような馬鹿をやるもの」は、59歳で最初の小説である本書を刊行したデフォーの実感そのものであるように思えます。
『あなたのモヤモヤに効く世界文学 恋愛から仕事、親子関係、中年危機まで』(堀越英美、筑摩書房)
無人島上陸から28年後、ロビンソンは海賊との大バトルを経て、ようやく帰郷することがかないました。財産を得たばかりでなく、50歳を過ぎて妻子にも恵まれます。それなのに、またしても東インドへの航海に出てしまうのです。本当に懲りない。
つらいときは、ロビンソンにならい、幸せと不幸の貸借対照表を作ってみてはいかがでしょうか。
「しかし、私は生きている」は中年になって周りを見渡してみると、幸運なことだとしみじみ実感できるはずです。
そして余力があれば、ロビンソンのように食材、家具、衣服、食器など身の回りのもののDIYに挑戦してみるのもよさそうです。慣れない仕事と格闘していた若いころの高揚感、どうにかなしとげたときの自己効力感を、再び味わえるかもしれません。







