世間体を気にしない女性が
羨ましく映った

 ジョーンの夫ロドニーには、ひそかに心を惹かれる女性がいました。女手一つで子どもを育てている近所のレスリーです。

 教育よりも子どもとのごっこ遊びに全力を注ぐレスリーは、あらゆる意味でジョーンとは正反対の女性でした。

 迫真の演技でオットセイになりきったり、雄たけびをあげながら匍匐前進したりするレスリーは、ジョーンにとって哀れみの対象でしかありません。

 こちらが椅子カバーの話をしているのに、エネルギー量子の話を楽しそうにぶちこんでくるなんて、空気が読めないにもほどがある。

 しかしロドニーは、乳牛の話をわくわくした顔で聴いてくれるレスリーに癒しを感じていました。ゆるぎない自分の基準をもち、世間体を気にすることなく生活を楽しみ、人生の苦難にも勇敢に立ち向かうレスリーは、唯一心を通わせられる女性だったのです。

 2人が少し離れて座って景色を眺めている姿を目撃したときから、ジョーンはそのことに気づいていたのでしょう。

 砂漠で過ごした数日間は、ジョーンがはじめて自分のためだけに使えた時間だったのかもしれません。

 彼女は深く考えないようにしてきた数々の不安に向き合い、ようやく自分と家族の真の姿を知ります。

子どもの自我が育ったら
自分の人生を取り戻そう

 ジョーンほど「義務」一辺倒な女性は珍しいでしょう。しかし育児や介護などのケア責任を一手に担い、自分の幸せばかりを追求してもいられないという状況は、多くの女性にとってなじみ深いものです。

 家族の世話に追われているうちに、自分が何を好きだったのかを見失い、他人の世話のなかにしか自分の存在意義を感じられなくなってしまうのも、ありがちではあります。

 この小説を読めば、女性は自分より家族を優先するべきという建前に振り回されることの恐ろしさが見えてきます。ジョーンだって、自分のためだけに使える時間がたっぷりあれば、尽くしてきた家族に敬遠されることにはならなかったでしょう。

 育児中の女性は、フラミンゴに似ているのかもしれません。

 淡いピンクが特徴のフラミンゴは、子育てしている間、一時的にピンクの色素が抜けてしまうそうです。ピンクの色素を、ミルクを通してヒナに分け与えるためです。ミルクを与える期間が過ぎれば、親鳥はピンク色を取り戻します。

 人間の親もフラミンゴのように、子どもの自我が育ったら家族から少し離れて、自分の生活、自分の人生を取り戻したほうがよいのかもしれません。