ただ、「看取りの直前」とは、死を前にして治療の手立てがない段階のことです。したがって「もっと治療を受けさせる」というのは、意味がほとんどない非現実的なことなのです。
ところが、親と疎遠になっていて事情をきちんと把握していないがゆえに、それがわからないこともしばしばです。急に看取りの段階になって親のところに来て、医療行為を求めるのは、それまで親御さんの近くで介護や療養を支えてきた人たちにとっては混乱を生じさせることになりがちです。
後ろめたい気持ちが
誤った正義感を暴走させる
このように疎遠にしていた子どもが急に来て、親の看取りの現場が混乱することは特別なことではありません。
この状態のことをよく「カリフォルニアから来た娘症候群」(Daughter from California Syndrome)という言葉で表現します。
遠方(カリフォルニア)に嫁いだ娘さんが危篤の知らせで帰ってきて、弱りきった親に対して不適切な積極的治療を受けさせてほしいと求めるような行動のことです。
この事象が発生するには一定のメカニズムがあるといわれています。
1つ目の要因として、これまで疎遠であった家族にはなかなか会いにこられなかったという「後ろめたさ」があります。
次に、今までの自分が知っている「付き合いにくい親」「困った親」の姿とは違う、弱りきった親を見ます。そのときに、自分が知っている親の姿(自分の認識)と「なんだこれ、めちゃくちゃ弱っている!」と思うくらい弱っている「現状の親の姿」とのギャップが大きくなります。
そのために「精神的な動揺」が生まれます。
この精神的な動揺は、しばしば「これは本来の親ではない」「死ぬはずがない」などの「親の衰え・親の死」を拒否する気持ちにつながってしまいがちです。
さらに「ギャップの大きさ→精神的な動揺→拒否の気持ち」の流れが発生すると、
「こんなに何もしてもらっていないなんてかわいそう」
「私がなんとかしてあげる」
という哀れみによる正義感が発生することがあるのです。







