財務三表、すなわち貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュ・フロー計算書(C/F)を、私も見たし、税理士にも見てもらった。2人の目線で財務状況をチェックして、過去の売上も洗いざらい見た。回答の期限は、資料をもらってからだいたい2、3週間後。その間に税理士と話し合って、「ビジネスとして成り立っていません、やめたほうがいい」と事業承継を反対されたんです。

本音をくみ取った
最古参スタッフ

 私としても、やっぱりだめかなという気持ちに傾きました。当時は、私の会社(今村翔吾事務所)の最古参のスタッフFさんに加えて、もうひとりパートで若い人を雇ったタイミングでもありました。私が作家活動に専念すれば、2人の生活を保証できるのに、余計なリスクを取っていいのだろうかと悩みました。そして、とことん考えた末に、「やめる」と言いました。気持ちとしてはやりたいけれど、やっぱりやめる。

 ところが、私の結論を聞いたFさんが、「この資料を持ち帰ってひと晩だけ見させてください」と言ってきたんです。翌日、彼女は「ここの数字がよくわからないから、もう1回聞いてみよう」「ここは削れるんじゃないの」など、いろいろな意見を出してくれた。

 要するに、私が本心ではやりたがっていることを、Fさんはお見通しだったんです。Fさんはもともと実家のダンススクールの教え子で、私は彼女が小4の時から知っています。それだけ長い付き合いだから、私の性格・情熱・夢を理解してくれているわけです。そういうスタッフが私の本音を汲んで、背中を押してくれた。だから、最終的に事業を引き継ぐ決心がついたのは、スタッフのおかげです。

 この時から、私は作家としても、経営者としても、意識が個人戦からチーム戦に切り替わりました。それまでは、あくまで個人事業主としての作家だったのが、「会社」になろうとし始めた、そういう転機になった出来事でした。

書店という商売には
多額の初期投資が必要

 きのしたブックセンターを事業承継して、まず考えたのは在庫(商品となる本)を買うことです。そのためには資金調達、戦で言うところの「矢銭」が必要なので、銀行の融資もしっかり入れました。もちろん、自己資金も拠出しています。