書店という商売は、始めるのに恐ろしくお金がかかります。同規模の飲食店の比ではない初期投資が必要になってくる。
いっぽうで、書籍は基本的には「委託販売」、つまり、売れなかったら取次に返品して現金化できることになっているため(委託制度)、金融機関は他の業態より融資をやや甘めに見てくれる面もあります。ちなみに、委託販売を受け付けない出版社もあります。その場合、書店側がリスクをかぶって買い取らなければいけません。これを「買切」と言います。
ですから、金融機関との付き合いはすこし楽かもしれないけれど、見方を変えれば、それだけ借金できてしまうということでもあります。
事業承継しても
店名を変えなかった理由
1坪約60万円の在庫が必要ですから(日本出版販売『書店経営指標2025年版』では本体価で61万円)、50坪なら、在庫を揃えるだけで3000万円かかります。そこに物件取得費、棚などの什器、内装、レジシステムなどの経費を計上すると、4000万円は超えていく。これはとても、個人が軽い気持ちで始められる商売ではありません。このあたりも、若年層の新規参入が難しい原因のひとつです。
ところで、きのしたブックセンターの名前を変えたらどうか?と言われたことがあります。今村さんが新たに仕切り直すのだから、店名も心機一転されたら?というわけです。
しかし、私ははじめから、名前を変えるつもりはありませんでした。きのしたブックセンターはもともと地場チェーンで、かつては箕面市を中心に4店舗を展開していました。それがひとつ、またひとつと潰れて、私が引き継いだ店が最後に残った1店舗でした。町と共に長年歩んできた書店なのです。だから、きのしたブックセンターという名前は残したかった。
そして、名前を変えなかったからこそ、「今村翔吾のまつり旅」(編集部注/今村氏が直木賞受賞後、47都道府県の書店や学校図書館を巡った旅)の時、「私、箕面出身です、きのしたブックセンターの件はありがとうございます」「子供の時に行ってました」といった言葉をかけてもらえました。「僕、学生の頃、きのしたブックセンターでバイトしてました」という人と、東北で会ったりもしました。やはり、店の名前と思い出は、分かちがたく結びついているのです。







