書店と学校図書館、合計285の施設から応募があったので、ひとつも断らず、全部に行きました。北は北海道・雨竜郡沼田町から南は沖縄石垣島まで、約4カ月かけて駆けずり回った。その間、一度も自宅には帰っていません。自動車の費用も宿泊費も、すべて自前だったので、トータルで1000万円以上はかかりましたね。前述のように、受賞作の印税は「裏の受賞パーティー」で使ってしまうつもりだったから、それを「まつり旅」に転用すればええか、という考えでした。
「まつり旅」は、書店の現状について見聞を広める絶好の機会となりました。坂本龍馬の諸国漫遊ではないけれど、47都道府県の書店を見た作家なんて、そうそういないでしょう。当時すでに、きのしたブックセンター(編集部注/筆者が2021年に事業承継した大阪府箕面市の書店)のオーナーになっていたので、全国の書店を視察することにはなおさら意義がありました。
各地の書店を訪ねてよくわかったのは、本業、つまり、「本を売る」だけで商売を成り立たせている書店はほぼ存在しないということです。文房具を売っている書店は私が子供の頃からありましたが、他にもカフェを併設したり、おしゃれな雑貨を売ったり、さまざまな手段で売上を確保しようと努力していました。
現場に熱量がある限り
決して終わりじゃない
また、都市部と地方の格差はすごく大きいと感じました。東京や大阪の書店なら、作家を招いたイベントは珍しくないけれど、私が訪ねていった地方の書店はだいたい、作家が店に来るのははじめてというところばかりでした。
どこに行っても、書店は疲弊しているな、苦しいんやな、と痛感したけれど、同時にどの地域のどの書店にも、本が好きでたまらない、なんとかして本の世界を盛り上げたいと思っている現場の人たちがいた。私はそこに希望を見ました。この人たちの心が完全に折れてしまった時に、俺たちはみんなまとめて敗退する、でも、現場にこの熱量がある限り、けっして終わりじゃないぞと思えたんです。
『書店を守れ!』(今村翔吾、祥伝社新書)
「まつり旅」を通じてたくさんの現場を見たけれど、自分は座学が足らん、書店に関する諸問題について勉強不足であることを実感しました。以降、私はことあるごとに「業界について教えてください」とラブコールを出すようになりました。「文藝春秋」にもそのような文章を書いたし、図書館業界にもアプローチをかけました。もっともっと、この業界を横断的に知らなければいけないという思いが、日増しに強くなっていったんです。
そうすると、私と似たような問題意識を持っている人、この業界をなんとかしたいと思っている人たちがやってきて、教えてくれるようになりました。今では、私のブレーンと言うか、相談役みたいになってくれている人もいます。
そういうことを積み重ねてきたので、私は今の書店業界について、作家のなかでは一番詳しいと思います。取次(編集部注/出版社と書店の間に入り、書籍や雑誌の流通を担う専門の卸売業者)の決算にまで目を通してる作家なんて、たぶん私だけではないでしょうか。







