「素晴らしすぎる」ホスピタリティ
かつて、遊園地にホスピタリティを期待する人はいませんでした。アトラクションをそろえて集客したら、お客さんは園内で放ったらかし。スタッフたちは身だしなみにあまり気を使うこともなく、汚れた制服を着ていることもしばしば。そして何より、従業員たちもアルバイトだと割り切って、言われた通りのことしかしなかったのです。
掃除担当は、掃除だけ。アトラクション担当も、誘導と安全確認という最低限のことをして終わり。それが当然のことだと思われていました。世界に、ディズニーランドが誕生するまでの話です。
ディズニーランドに入ってまず驚くのは、その清潔さでしょう。毎日何万人という人が訪れるのにもかかわらず、ゴミが散乱した様子を見たことがありません。カストーディアルと呼ばれる清掃係は、15分おきに持ち場を清掃します。ときには、水たまりの水を絵の具代わりに、ほうきでミッキーの絵を描いて子どもたちを楽しませることもあります。
よれよれで汚れた服を着たスタッフもまず見当たりません。アトラクションの案内係は「こんにちは」という元気な挨拶でゲストを迎え入れますし、人気のアトラクションのひとつ、ジャングルクルーズでは、アドリブのセリフで毎回ゲストを笑わせます。
近年では、2011年3月11日の東日本大震災時にスタッフが見せた、落ち着いた対応が「素晴らしすぎる」と絶賛され、テレビやネットで話題になりました。彼らはまず、おびえるゲストたちを励まし、安全な場所へと誘導しました。
さらに、自らの判断で防災頭巾代わりに売り物のぬいぐるみを手渡し、避難中に雨が降ってきたときには買い物用のビニール袋を配り、パーク内に泊まることになった帰宅困難者には毛布だけでなく段ボールを支給したのです。
私たちの見えないところでも、アルバイトは活躍しています。待ち時間を短縮するファスト・パスや、トイレが空いていることを示す「空いてマウス」といったサービスも、彼らの意見から実現したアイデアでした。そんなディズニーランドのホスピタリティを学びにわざわざ視察に訪れる企業も多いようです。
彼らが一流ホテルの従業員ならばわかります。しかし、彼らは他の遊園地や飲食店と同じアルバイト。どうして、ここまでの水準のサービスが可能になるのでしょうか。