クローン幻想に囚われたマネジャーは、自分(あるいは理想の誰か)という「正解の像」を持っています。その像と現実のメンバーを比較し、足りない部分、つまり「穴」を見つける。そしてその穴を埋めるために、否定的なフィードバックを投げかける。これがダメ出しの構造です。

 しかし、営業という仕事は、欠点を埋めれば成果が出るほど単純なものではありません。メンバーがやるべきことは、自身の強みを活かした「創意工夫」や「仮説検証」であり、欠点に怯えることではありません。マネジャーから「できていないこと」を思い知らされたメンバーは、萎縮し、失敗を恐れるようになります。すると、本来成長に寄与するはずの「トライ(試行錯誤)」が止まってしまうのです。

 マネジャーが「正しいこと」を指摘しているつもりでも、相手にとってはそれが「自分への否定」として響き、学習のシャッターを下ろさせてしまう。これが、ダメ出し型指導が営業スキルの向上に寄与しない最大の心理的要因です。

ダメ出しばかりが続けば
部下は「作業マシン」と化す

「ダメ出し型」の指導が常態化し、マネジャーが「クローン幻想」に囚われ続けると、メンバーたちの心に「どうせ何をやっても無駄だ」「自分には状況を変える力などない」という冷めたあきらめが定着してしまいます。

 モチベーション心理学の用語では、これを「学習性無力感」と呼びます。営業組織においてこの「学習性無力感」がどのように起きるのかをもう少し詳しく紐解いてみましょう。

 クローン幻想に陥ったマネジャーは、自分の中に絶対的な「正解」を持っており、メンバーとの間に生じるズレを許容できません。

 言われる側のメンバーは、最初はなんとかその期待に応えようと、必死に食らいつきます。無理をしてでも行動量を増やし、慣れないトークを(言われた通りに)なぞり、不慣れな方法でお客様の懐に飛び込もうと、文字通り泥臭く奔走するはずです。

 しかし、クローン幻想に基づいたアドバイスは、理想(コピー元)と現状(コピー先)とのギャップを指摘する方向に向かいがちです。それは前述した通り、効果をあげにくい「ダメ出し型」の指導です。メンバーの特性や、お客様との関係性および文脈を無視して、特定の誰かをそのままコピーしたところで、当然ながら結果はついてきません。