軽い気持ちで応募しただけなのに
「犯罪者」になるリスクも

「買い子」はこの時点で、単なる詐欺被害者ではなく「犯罪者」になるリスクがある。

 銀行口座を他人に譲渡(売買・貸し借り)する行為は明確な犯罪だからだ。通帳・キャッシュカード・ネットバンキングのログインID・パスワードなどを他人に譲り渡した場合も同様である。

「時計の代理購入」自体は合法かもしれないが、それに付随する行為はアウトなのである。先述のブログや募集要項は、そうした事実をうまく隠している。

 また、実行役が時計店や銀行で店員・行員に怪しまれ、通報を受けて臨場した警察官から聴取を受けるなどして口座の譲渡が露見した場合、発注者は即座に通信履歴を消去し、「買い子」を現場に置き去りにして逃亡する。結果、すべての法的責任は「買い子」が背負うこととなる。

「違法じゃない」という誘い文句につられ、軽い気持ちでアルバイトに応募しただけの人が、最悪の場合は犯罪者になってしまうかもしれないのだ。実名で報道されたり、新規の口座開設ができなくなったりする可能性もゼロではない。

 先ほど述べた「高級時計の購入代行は、絶対にやってはいけない闇バイトである」という意味がご理解頂けただろうか。

 ここまで読んで、「購入代行の発注元は、本当に全員が悪人なの?」「単なる“転売ヤー”もいるのでは?」と疑問に思った人がいるかもしれない。

 その指摘は半分正解だ。良くも悪くも、今の日本は、円安に伴う外貨の価値の高さ、中古市場の信頼性の高さ、流通する中古時計のコンディションの良さなどから、「上質な中古時計が、世界で最も安く買える場所」になっている。

 そのため、代理購入者を使って時計をかき集める“転売ヤー”も確かに存在する。正規店から定価で購入した時計や、海外市場よりも安く手に入れたアンティークウォッチを、裏市場や海外に高値で転売し、莫大な利ざやを稼ぐのだ。

 彼らから時計を買っている顧客は、海外富裕層・実業家・投資家などである。ただし、犯罪組織がプロの転売業者を兼ねていることも珍しくない。両者が別物であるとは限らず、行きつく先は同じなのだ。