キアヌはひたすらラーメンを食べていた。ディカプリオはよく歩いた。いまや世界の「おいなりさん」となった伏見稲荷大社では稲荷山の頂上まで登り、超有名スポットの清水寺ではすべての建物を見てまわった。

 会社勤めのときは、客と写真を撮ることは禁じられていた。だから、大島さんがジョブズと一緒に撮った写真はない。残念ながら。

気難しいと言われるジョブズが
気さくに握手に応じていた

 大島さんは、時期がはっきりしていないものもあるが、ジョブズの京都旅行に4回付き添った。

・1996年4月 ジョブズと妻ローリーン
・2003年前後 ジョブズと妻ローリーン
・2007年前後 ジョブズ、妻ローリーン、息子リード
・2010年7月 ジョブズ、妻ローリーン、娘エリン

 ジョブズは京都の古い街並みを好んでいた。その1つは上七軒で、大島さんと何回か通ったことがある。上七軒は京都に5つある花街のうちで最も歴史が古い。石畳の道の両側には伝統的な造りの建物が並び、京都ならではの優雅で落ち着いた雰囲気の街並みを楽しめる。

上七軒の古い街並み・ジョブズが好んだ京都ジョブズが好んだ京都・上七軒の古い街並み 提供:著者

 大島さんが驚いたのは、ジョブズがボディーガードをつけなかったことだ。アメリカの大企業のトップといえば、ボディーガードを数人連れてくるというケースが多かったからだ。

 初めて同行したとき、清水寺で「ジョブズ~」と観光客に呼び止められて握手を求められると、気軽に応じて言葉も交わしていた。

 大島さんは、「日本は安全と思っていたこともあると思いますけど、家族を喜ばせたいという意識が高かったのかな」と話している。

イッセイミヤケより安いよと
ユニクロを薦めたことも

 家族といるときのジョブズは、ビジネスのことについて話すことはほとんどなかった。ただ、電話で社員と話しているときは、かなり厳しい口調のときがあった。

 また、秘書のことに話が及ぶと、「僕はすぐ首にする」とか「1年間に何人を首にしたよ」と語り、大島さんは「絶対にアップルの社員にはなりたくないな」と感じていた。

『スティーブ・ジョブズ1.0の真実』書影スティーブ・ジョブズ1.0の真実』(佐伯健太郎、晶文社)

 ジョブズは大島さんのことをいつも「ヒロ、ヒロ」と呼んでいた。「アメリカに来たら遊びにこい」と、自宅の住所と電話番号も渡していた。いつのまにか大島さんは、「ミスター・ジョブズ、次にアップルの製品ができたら『ヒロ』と名前をつけてくださいよ」と、冗談も言える仲になっていた。

 2回目に案内したとき、大島さんはジョブズが身に着けていた「イッセイミヤケ」の黒のタートルネックのことについて聞いてみた。

「それ、年中同じ黒いものを着ているの?」ジョブズが「そうだ」と答えた。「どれぐらい持っているの?」と聞くと、妻のローリーンが笑みを浮かべながら、「hundred(100)よ!」と答えた。

 大島さんはさらに突っ込んだ。「それ、おいくらですか?」。ローリーンが「238ドル」と答えた。けっこう高いんだなあと思った大島さんは、「日本にはもっと安いのあるよー」と言ってユニクロを薦めた。