テスラ、BYDという「分かりやすい驚き」

F:とはいえ今の国内EV市場は、非常に厳しい状況ですよね。ライバルも無視できません。

 テスラはとにかく分かりやすい。あのドカンと来る加速は、好きな人にはたまりません。実は私も嫌いじゃありませんし(笑)。BYDを始めとする中国勢は、価格も装備も相当な破壊力です。「この値段でここまでやるのか」というのが正直なところです。

樋:そこはもう、認めるべきところは認めるべきだと思っています。私たちも刺激を受けていますし、そこから学ぶべきところもあると思っています。私たちが届けたいクルマとお客様が求めるクルマがピタリと一致すれば話は早いのですが、一致していない部分も間違いなくあります。いまこの瞬間に何がお客様に受け入れられているのか。それを見るのはとても大事です。

 ですが、「この瞬間」と「この先」は、たぶん大きく違います。そこを見ながら、「未来の普通のクルマ」とは何だろうと考えていきたいと思っています。

F:いまウケているクルマの線でそのまま行くのではなく、その先にある“普通”を考えると。

樋:はい。クルマとしての質、移動の質、パッケージとしてどうあるべきか。そこにつなげていきたいと考えています。

 EVの世界は、どうしても「分かりやすい驚き」に引っ張られがちだ。加速が強烈。画面が大きい。ハイテク武装。価格が安い……。そうした要素のアピール力は確かに強い。不肖フェルもテスラやBYDに乗ると「これはこれでアリだな」と率直に思う。

 だがリーフが目指しているのは、その世界を追いかけることではない。

 家族を乗せる。旅行にも買い物にも行く。夏も冬も乗る。そうした“普段使い”の中で、不満をひとつずつ減らしていく。派手な驚きではなく、乗っている時間そのものの質を上げていく。これが日産の標榜する「フューチャースタンダードEV」ということなのだろう。

リーフの新しい開発責任者は、歴20年の電子電装エンジニア

F:樋渡さんがイメージする、顧客のニーズとは何でしょう?クルマは皆が皆、同じものを良いと思うわけではありませんよね。私みたいにドッカン加速が好きな人もいれば、あんなの怖い、うっとうしいと思う人もいる。樋渡さんが目指す理想のEVを言葉にできますか。

樋:少し私のバックグラウンドに触れさせていただくと、私は20年ほど電子電装を専門にやってきました。昨年度から部署を異動して、アリアのDCVE(Deputy Chief Vehicle Engineer)を、磯部の横で学びながらやってきました。

※DCVE:副チーフ・ビークル・エンジニア。車両全体の開発推進を担うナンバー2的な立場