黄色いベスト運動は「生活干渉への怒り」

 この構図が最もはっきり表れたのが、2018年に始まる「黄色いベスト運動」だった。

 この運動のきっかけは、マクロン政権による燃料税引き上げである。政府は環境政策の一環として、化石燃料の使用を抑えようとした。だが、地方や郊外の生活者にとって、それは単なる環境政策ではなかった。

 パリや大都市に住む高所得層であれば、公共交通を利用して自動車なしの生活に適応できる。だが、地方や周縁部では車は生活必需品であり、通勤、通院、買い物、子どもの送り迎え、農業、物流、暖房に直結する生活インフラである。その燃料に税をかけるということは、地方生活者にとって日常生活への干渉にほかならない。

 環境規制は、多くの都市エリートにとっては倫理の延長だが、地方の生活者から見れば、都市生活者の押しつけに映る。国民連合が支持を広げる背景にはこの感覚がある。反環境というより、反「生活干渉」の運動と理解すべきだろう。

国民連合がウクライナ支援に消極的なワケ

 この「生活干渉への怒り」は、EU全体への違和感へと拡張される。

 EUはもともと、ヨーロッパで二度と戦争を起こさないために作られた枠組みだった。フランスとドイツが平和的に共存するための仕組みであり、石炭・鉄鋼などの共同管理という産業政策上の協力から出発している。フランスは当初、EUを通じてドイツを拘束し、アメリカに対抗し、自国の影響力を拡大しようとしてきた。

 だが、現在のEUは、財政、移民、環境規制、司法、人権、対外政策、安全保障に至るまで、加盟国に干渉する超国家的な統治機構になっている。EUの環境規制は地方の生活を縛り、移民・人権規範は治安や同化政策を制約し、財政規律は社会支出や産業政策の余地を狭める。言い出しっぺの一つだったフランス自身が、いつの間にかEUに縛られる立場になったのである。

 ウクライナ戦争はこの違和感をさらに強めた。EUは今や、非加盟国であるウクライナを支援し、対ロ制裁を主導し、軍事・財政・復興支援を担う地政学的主体になっている。その結果、フランス国民はエネルギー高や財政負担を引き受けることになった。

 しかも、そのウクライナ支援はマクロン政権が主導したものである。にもかかわらず、EUも政府も「欧州の価値」「民主主義の防衛」を繰り返すのみで、国民への十分な説明を欠いたまま関与を既成事実化した。

 国民連合は近年、ロシア寄りとの批判を避けるため立場を修正しているが、依然としてウクライナ支援には慎重姿勢を取っている。国民連合のウクライナ協力への消極姿勢は「親ロシア」としてではなく、EUとNATOに引きずられてフランスが非加盟国の戦争に巻き込まれることへの抗議と理解すべきだろう。

 問われているのは、主権である。フランスの外交、安全保障、財政負担を、誰が決めるのか。パリなのか、ブリュッセルなのか、ワシントンなのか。この問いが国民連合の主張を支えている。

 ルペンは反EUではないが、EUが超国家的存在として各国を縛ることには明確に反対している。当初は目標に掲げていた「フレグジット(いわゆるブレグジットのフランス版)」を正面から掲げなくなった現在、国民連合が目指すのはEUを国家間協力の枠組みに戻すことである。これは「フランス主権派」と呼ぶべき立場だ。