欧州議会選挙で躍進した、フランス「国民連合」の変貌【池上彰・増田ユリヤ】2024年6月14日、フランスのモンタルジ近郊のチュエルにて、次期フランス議会選挙に向けた最初の選挙活動で農場を訪れる国民連合のジョルダン・バルデラ党首 Photo:REUTERS/AFLO

「魔女」と呼ばれていたルペン氏は“脱悪魔化”

池上 「右派勢力の躍進」「極右台頭の衝撃」――。6月6日から9日にかけて行われた欧州議会選挙の結果を受けて、各メディアではこうした文言が飛び交いました。“極右”とされるフランスの政党、国民連合が所属する会派「アイデンティティーと民主主義」が議席を9伸ばし、58議席を獲得。マクロン仏大統領が率いるリベラルの「欧州刷新」は議席を22も減らしています。

増田 国民連合は、前代表であるマリーヌ・ルペン氏が2017年の仏大統領選挙で現在のマクロン大統領との決選投票に臨んでいます。敗北はしたものの、極右政党の代表がここまで善戦するのかと世界を驚かせました。当時は300人以上の被害者を出した15年のパリ同時多発テロの記憶が新しく、犯人が仏国籍の移民系住民だったことから移民排斥の空気が高まっていました。そのため移民排斥を唱える極右政党が支持を得やすかったのでしょう。

 しかし、今回フランスで取材した実感から言えば、「現在の国民連合はもはや極右ではない」というのが実際のところではないでしょうか。ルペン前代表はソフト路線にかじを切り、それがもとでルペン氏のめいのマリオン・マレシャル氏は離党し、国民連合よりさらに右の政党を立ち上げています。

池上 ルペン氏は「魔女」と呼ばれていたけれど、政党が穏健化したことで「脱悪魔化」が進んだともいわれています。党名も以前の「国民戦線」よりソフトになりました。一方で、支持を広げるためにソフト路線に見せかけているだけなのでは、との指摘もあります。

増田 私は「実際に極右ではなくなった」のだとみています。現在、国民連合の代表はルペン氏が大抜てきしたイタリア系移民のジョルダン・バルデラ氏が務めています。ソフト路線に見せかけるために、欧州系とはいえ移民を党首に据えられるものでしょうか。

 バルデラ氏は28歳の若さで、貧民街出身。フランス国内のマフィアや麻薬取引を身近に感じながら育ってきた人物です。非常に弁が立ち、集会では実に5000人もの支持者が集まりました。右派の支持者は熱量が高いんです。

池上 国民連合は今回の欧州議会選挙に40歳以下の若い候補を7人も擁立しました。