落合:その達人が、「ドラえもん」ののび太です。昼寝をしているとドラえもんがやってきて、こんな昼間から寝てばかり!と叱られる。あれは堕落シーンの描写の最高峰です。堕落しているゆえに、のび太はドラえもんを呼び寄せることができました。読者も「しょうもねえ奴だな、のび太って」と思いながら、みんなどこかでのび太に憧れている。何の生産性もない時間にこそ、夢や空想が入り込む余地がある。

生産性よりも気分を
優先させる「いい堕落」

田中:女性に溺れる、それも堕落でしょうか。恋愛に溺れると破滅に向かうとしても、それはそれでエネルギーがいることだから。

落合:溺れてしまうのなら、それは堕落です。婚活では堕落になりませんが。婚活は切実で明確な目標設定があるので。のび太の昼寝ぐらいの、どうしようもなさがなければならない。眠いから寝る、ではいけません。それはただの睡眠であり生理現象です。目的意識を持った瞬間に、それは「活動」になってしまう。無目的であることが、いい堕落の条件です。

 私はあるとき、スマホと文庫本1冊だけ持って職場の大学へ向かったことがあります。行き帰りの電車で読むための、中原中也詩集だけを手にして。その姿は、いかにも仕事をする気がないように見えます。機能性よりも気分を優先し、生産性を放棄する態度をあからさまにする。これは堕落としか言いようがありません。

ズル休み文化が広まれば
社会はもう少し豊かになる

田中:非生産的であることは、堕落のひとつの条件ということでしょうか。無断欠勤はよくないが、何となくズル休みするのは堕落として認めていい。会社員は、毎日行きたくないのかもしれないのに、会社へ通っているわけです。それをずっと続けているのですから、たまには魔が差してズルしたくなることもあるでしょう。そういうときはちょっと堕落して、ズル休みすればいい。