それぞれの分野の専門家が集まり、たくさんの会議を重ねた末に、このような計画ができ上がったのだろう。それはそれでいいのだが、結果として、単純に1つひとつの路線の改札口間の距離が延びてしまった。

 井の頭線から山手線外回りへの乗り換えでは、改札までの距離は4倍くらいになったと思う。地元の人間が「不便になっているのではないか?」と感じる原因はここにある。

 原理は簡単だ。通路を広げるためには一定の面積を確保しなければならない。敷地の面積は変えられないので地下深くに潜るか、従来の線路を削って改札口を奥に移動させるしかない。

 いずれにしても改札口は遠くなり、利用者にとってはターミナルとしての機能が、どんどんと拡散していっているように感じる。やがてすべての工事が完成すれば、そのような感覚は解消されるのかもしれないが。

東京都心部は「まんじゅうのあんこ」
建築家が語った渋谷の未来

 豊かになることはいい。効率性は否定しない。しかし結果として、そこで失うものも多くある。

『寂しさへの処方箋 芸術は社会的孤立を救うか』書影寂しさへの処方箋 芸術は社会的孤立を救うか』(平田オリザ、集英社)

 建築家の故・槇文彦先生と、先生の代官山のオフィスでの対談を思い出す。渋谷に隣接する代官山のヒルサイドテラスは、槇先生のデザインで低層棟を組み合わせ、その中に意図的に路地裏のような空間を配置した。

 槇先生は東京の都心部にいまもある、そういった空間を「まんじゅうのあんこのようなもの」と喩えていらっしゃった。広い通りに面して高いビルが建っていく。これがまんじゅうの皮だとすれば、そこから一歩奥に入ると、小さな路地が入り組んで豊かなあんこのような空間を構成している。これが東京の魅力だったのだ。

 渋谷については、高層ビルの中に商業施設、ホテル、オフィスなどが含まれる複合施設が増えていて、それだとセキュリティ上、機能分野ごとに分断せざるを得ず、人の交流が起こらないのだと指摘なさっていた。

 対談が終わった最後に、「実際、渋谷はどうなっていくのですか?」と率直に問いかけたところ、「もう、あれは、難しいかもしれませんね」と苦笑いをされていた。