ロシアとの関係強化が進んだ理由
もう一つ重要なのは、ドイツ統一にはソ連の承認が必要だったことだ。そのため、統一を実現したコール政権以来、ロシアを「パートナー」として取り込む路線が定着した。
それはメルケル政権にも引き継がれ、ロシアによるガスパイプライン「ノルドストリーム」推進へとつながっていく。だが、エネルギーをロシアに依存したことで、ウクライナ戦争後のエネルギーコスト急騰がドイツ製造業の競争力を根底から破壊することになった。
東ドイツ統一→対露融和路線→エネルギー依存という地政学的連鎖が、今日のドイツの最大の弱点を作り出している。東ドイツ問題は過去のものではなく、政治・経済・安全保障の全領域で現在進行形の危機としてドイツ全体をむしばみ続けているのである。
ディーゼルゲートと技術の喪失
東ドイツという構造的弱点に、VW固有の自縄自縛が重なった。それが2015年のディーゼルゲートだ。
約1100万台に排ガス検査時だけ規制値をクリアするソフトウェアを搭載した不正の本質は、NOx規制を技術的・コスト的に満たせなかったにもかかわらず、EVへの移行を先送りしたことにある。不正発覚後、VWは世論・規制当局・投資家に対して「EVで生まれ変わる」という宣言を事実上強いられた。
内燃機関への回帰は「反省していない」というシグナルとして受け取られるリスクがあり、経営陣は選択肢を自ら封じた。
同時に、トヨタほどハイブリッド技術に経営資源を集中投資してこなかったことが、結果的に致命傷となった。トヨタは1997年のプリウス以来、ハイブリッドに30年近く投資し続け、EVが普及しない局面での「逃げ場」を確保していた。EVシフトを宣言したVWにはその逃げ場がなかった。
その結果として生じたのが、重要技術の喪失だ。EVシフトを宣言した後、内燃機関の熟練エンジニアが将来性を失い転職・退職した。工場閉鎖で熟練工が散り散りになった。
自動車製造における技術には数多くの「暗黙知」が必要とされる。金属の微妙なゆがみを手で感じ取る感覚、異音から問題を特定する経験則、設計図には書けない組み付けの「コツ」だ。「一人前」になるには10~20年かかるとも言われるが、失われるのは一瞬だ。
これと同じことが起きたのが、かつてのイギリスだった。金融大国を目指したサッチャー改革で、製造業の技術を失ったイギリスは、その後いくら資金を投じても製造業を取り戻せなくなった。
ドイツが今まさに同じ轍を歩み始めている。ただしイギリスは「別の道」を歩もうとした結果だったが、ドイツは歩もうとしているその道で袋小路に迷い込んでしまったのである。
今後は職人の「暗黙知」をAIなどでいかに効率的に伝承していくかが重要になる。ただ、その暗黙知自体が失われれば、すべては水泡に帰す。







