なぜ、リトレッドタイヤは「後輪専用」なのか

F:もう一つ気になったのが「後輪専用」という点です。これはとても意外です。前輪に履かせると危ないということですか?

:現在のリトレッドタイヤは品質が飛躍的に向上しており、工場出荷後に発生するトラブルはほとんどありません。しかし、万一走行中に前輪がバーストするようなことがあれば、ハンドルが効かなくなり大事故につながります。後輪であればトラックはダブルタイヤ(片側に2本ついている)ですから、1本がパンクしてもすぐには姿勢を崩しません。そのため、安全を最優先に考え、業界全体の自主ルールとして「リトレッドタイヤは後輪のみの装着」と定めているのです。法律とかではなく、あくまでも自主ルールです。会社さんによっては、自己判断で前輪に使っているところもあります。

F:なるほど、徹底したリスクヘッジですね。ところで、リトレッドタイヤの価格は「新品の7割」と聞きます。寿命は「新品の9割」と聞いています。実際のところ、もちはどうなんでしょう?表面に貼るゴムの造り方は新品と同じわけですよね。

:そうですね、リトレッドタイヤの寿命は新品にやや劣るくらいです。おっしゃる通り、表面に貼るゴムのコンパウンド(配合)を調整すれば、いくらでも硬くして寿命を延ばすことは可能です。技術的には新品と同じ10割、あるいはそれ以上持たせるゴムを貼ることもできます。

あえて“新品未満”に寿命を抑える理由

F:できるのにやらない?それはなぜですか?

:ズバリ「安全のため」です。先ほど高瀬から「ベースとなるタイヤの基本性能が飛躍的に向上した」と申し上げましたが、いくら頑丈になったとはいえ、一度限界まで使われた台タイヤ(ケーシング)には、目に見えない疲労が確実に蓄積しています。金属疲労ならぬ“ゴムの疲労”ですね。もし我々が、技術にまかせて「絶対に減らない魔法のゴム」を表面に貼ったとしましょう。するとどうなるか。表面の溝はピンピンに残っているのに、先に土台である台タイヤが限界を迎えてしまい、走行中に内部構造から破断してバーストを引き起こす危険性があるのです。

:ですから我々は、台タイヤが音を上げるよりも“ほんの少しだけ早く”、表面のゴムがきっちり摩耗して寿命を迎えるように、コンパウンド(ゴムの配合)を絶妙にコントロールしています。表面が減れば、ドライバーや整備士が「ああ、寿命だな」と気づいて、安全なうちにタイヤを外してくれますからね。これが最大の理由です。

トーヨータイヤ 商品企画本部 生産財商品企画部長 杉本裕昭氏 Photo by A.T.TOYO TIRE 商品企画本部 生産財商品企画部長 杉本裕昭氏 Photo by A.T.

 エコだ、コストダウンだと言いながらも、その根底には強烈な「安全への執念」がある。もし表面を硬くしすぎて長持ちさせてしまえば、土台の寿命に気づけず大事故につながる可能性もある。だからタイヤ自らが自身の「引き際」をユーザーに知らせるよう、あえて寿命を短くコントロールしているのだ。単なるリユースではない、メーカーとしての高度なインテリジェンスが存在していた。