10万キロ以上走る長距離トラックには「向かない」
F:良いですね。表面の摩耗を一種のセンサーとして機能させている。その「土台の寿命」についてお聞きしたいのですが、過酷な環境で走るトラックほど消耗も激しいですよね?たとえば、日本の大動脈である高速道路を昼夜問わず走り続ける「長距離トラック」などは、頻繁にタイヤ交換が必要になるでしょうから、それこそ安価なリトレッドタイヤが引っ張りだこになるのではないですか?
月:実はそこが、リトレッドタイヤの面白くも難しいところなのですが……高速道路を長距離走り続けるトラックには、リトレッドはあまり向いていないんですよ。長距離トラックは一度高速道路に入ってしまえば、一定の速度で淡々と巡航し続けます。信号でブレーキを踏んだり、ゼロから発進したりという「ストップ&ゴー」が極端に少ないんです。おまけに交差点もありませんから、ハンドルを大きく切ることもない。タイヤのゴムが最も削れるのは加減速とステアリング操作の時ですから、高速道路を巡航している間は、極端な話「ただ転がっているだけ」に近い状態なんです。走り方や積載量にもよりますが、長距離トラックの場合、10万km以上持ってしまうことも珍しくありません。もちろん、使用条件によって寿命は大きく変わるのですが。
F:10万km以上!いったい何年かかってそんな距離を……。
月:1年ちょっともあれば、長距離トラックはそれくらい楽勝で走ります。で、高速道路メインでそれだけ走ると何が起きるか。表面の溝はまだまだ残っているのに、長時間の走行による熱の蓄積や、紫外線、雨風にさらされることで、ゴムの油分が抜け落ちてしまう。つまり、台タイヤそのものが「経年劣化」を起こしてしまう。いざ表面が減って「さあ、リトレッド工場に出そう」と持ち込まれても、検査機にかけると、土台が劣化していて不合格として弾かれてしまう……と。
F:なるほど。まさしくゴムは“ナマモノ”ですね。摩擦が少なく長持ちしすぎるがゆえ、鮮度が落ちて土台が限界を迎え、再生のサイクルに乗せられない。なんとも皮肉な逆転現象です。では逆にリトレッドと相性が良いのはどんな車両ですか?
杉:相性が良いのはダンプや街中の路線バス、そしてゴミ収集車などの「働くクルマ」です。彼らは街中で「ストップ&ゴー」を執拗に繰り返しますし、狭い路地で据え切り(停止したままハンドルを切ること)も頻繁に行います。すると、台タイヤが経年劣化を起こす前に、表面のゴムだけが短期間でゴリゴリと削れていく。土台の鮮度はピカピカなのに、表面だけがツルツルになる。こういう車両はリトレッドに向いています。
乗用車用リトレッドが存在しないワケ
F:最後にもう一つだけ。これだけ検査技術と製造技術が進んでいるなら、「乗用車向けのリトレッドタイヤ」は造らないのでしょうか?我々マイカー族も、安くてエコなタイヤの恩恵にあずかりたいと切に願うのですが。実際に私、学生時代はスノータイヤ(昔はこう言ったのです)をいわゆる“再生タイヤ”で買っていました。1本2000円。それにスパイクを打つとプラス1500円。後輪だけスパイクにして、4輪で1万1000円(笑)。
杉:大昔の話ですね(笑)。お気持ちは大変よくわかりますが、今は乗用車向けは造っていません。今後も予定はありません。理由は大きく分けて「物理的要因」と「経済的要因」の二つです。まず物理的な面ですが、乗用車はトラックに比べて高いスピードで走りますし、ドライバーの乗り心地(NVH:ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)に対する要求が極めてシビアです。リトレッドはどうしても新しいゴムを“貼り合わせる”工法になるため、乗用車に求められる完璧な真円度や、重量の均一性(ユニフォミティ)を出すのが技術的に難しい。コンマミリ単位の僅かなブレが、ハンドルや車体の不快な振動に直結し、即クレームになってしまいます。







