投資や起業で成功した人々には、可能性は小さくても影響が甚大な「テールリスク」に関心を寄せる人が少なくない。核戦争や世界大戦は、確率こそ低いが起きれば全資産・生命が失われる「究極のテールリスク」である。
彼らの思考回路からすれば、そこへのヘッジを考えるのはほとんど「習性」とも言ってよい。
また、一般人にとって世界大戦は「考えても仕方がない」ものだが、富裕層にとっては実際に備えられる対象だ。一般人には手が出せないような避難地やシェルターなども、彼らの財力からすれば大したものではない。
ティール氏の「アンチキリスト」思想
ティール氏の世界観を理解する鍵は、彼が近年繰り返し論じている「アンチキリスト」という概念にある。
「アンチキリスト」とは、キリストを名乗り、救世主のように見せかけて人々を欺き、破滅へ導く「偽の救い主」を指す。平和と救済を約束する魅力的な顔で登場するからこそ危険だとされている。
ティール氏は、「アンチキリスト」を現代に当てはめるなら、「世界を一つにまとめ、紛争を終わらせる」と唱える全世界的な統一秩序として現れると論じている。たとえば、国連などの「グローバル・ガバナンス」、国際規制の一元化、「安全」と「平和」の名のもとに進む統制、そうした発想を、彼は現代のグローバリズムの一形態として批判している。
また、新約聖書に由来する「カテコン(悪の到来を抑え止める者)」の概念を持ち出し、アメリカがその役割を担うべきだと考える。なお、ティール自身が自分をカテコン的な存在とみなしているという説もある。
このことに違和感のある人もいるだろう。ティール氏はPayPalの創業者の一人であり、初期の理念は「政府の通貨主権を回避して個人が国境なく資金を動かせる世界を作る」というまさにグローバリスト的発想そのものである。ティール氏こそ国民国家を壊す側の代表的人物の一人だとも言える。
ティール氏が「悪」と呼ぶテクノロジーによる社会の一元管理を技術的に可能にしたのは、自身の企業パランティアだ。監視技術で国家に食い込むその事業は、彼が糾弾する「統一された管理システム」そのものを供給している。
「アンチキリスト」を警戒する一方で、アンチキリスト的社会の発展に貢献したのがティール氏である。







