ウォーレン・バフェットの選択

 バフェット氏は世界有数の富豪でありながら、95歳になってなお、ビッグマックとコカ・コーラを好み、友人とカードゲームに興じる。その日常はその財力から見ると驚愕するほど質素だ。

 そのバフェット氏は、いま日本株再評価の象徴的な存在となっている。

 バークシャー社が日本の5大商社(三菱商事・三井物産・住友商事・伊藤忠商事・丸紅)の株式を各5%超取得したことが明らかになったのは2020年8月30日、バフェット氏の90歳の誕生日である。

 地味な値動きだった日本の商社株は、そこから劇的に動き出した。2020年から約5年間で三菱商事は約5.4倍、三井物産6.1倍、住友商事4.4倍、丸紅9.1倍、伊藤忠5.0倍。同期間のTOPIXの上昇率(約2.8倍)を大きく上回った。

 では、なぜ日本の商社だったのか。

 バフェット氏の答えは拍子抜けするほど当たり前のことだった。まず、割安であること。当時の商社株は「信じられないほど割安」で、低PBR・高配当という、彼の投資基準の中核「本来価値より株価が安い」にそのまま当てはまった。

 また、バフェット氏のバークシャー社が、円建て債(サムライ債)を極めて低コストで発行し、その円で割安・高配当の商社株を買えたことだ。為替リスクを負わずに利ざやを抜けたわけである。

 最後の決め手が、地政学的な判断である。バフェット氏は台湾TSMCにも投資したことがあるが、「台湾より日本のほうが良い投資先だ」と語り、短期間で売却している。

 ただし、それらは根本的な理由ではないかもしれない。俯瞰すれば、世界最高の投資家が日本企業の将来性を買ったのである。

「50年は売らない」と95歳が語る

 バフェット氏は2025年5月、CEOとして臨んだ最後の株主総会で、商社株について「私がいなくなって50年後に、後継者が同じことを言うだろう。この投資について何も懸念していない」と語った。95歳の人間が、50年の時間軸で語る。

 この時間感覚が、バフェット氏をカリスマ的投資家にした原動力だろう。多くの投資家が数カ月~数年で結果を求める中、バフェット氏は数十年単位で投資を考える。

 よく言われるように未来を予知しているのではなく、「時間をかければ良いものは報われる」という信念のもと、「正当に評価されるまで待てる」のである。

 バフェット氏の目は、人間が本来持ちうる最も成熟した目である。異変にもパニックにならず、流行を追わず、本質を見極める。答えが出るまで何十年でも待つ。

 私たちには「超人」のように思えるこの能力は、恐怖と欲望という人間的な弱さを飼いならした先にある一つの「達成」だろう。また、バフェット氏は誤りを認めてから行動が早いことでも知られている。TSMC売却については「特に理由はなく、リスク感覚による決断」と述べている。

「自分は間違えうる有限な存在だ」と自己認識し、誤ったと思えばすぐに修正できる能力が、バフェット氏の投資行動の核心にある。