「いつ釈放されるのかわからず、抱えていた案件は次々と辞任せざるを得なくなっていく。信用商売ですから、一度失った信頼を取り戻すのはかなり難しい。社会人としてようやく上昇していると感じていたときに、一つ一つ仕事を失っていくのはとてつもない恐怖でした」
接見禁止のついた江口さんは家族にも会えず、外部の様子や経済状況は弁護人から教えてもらうしかない。貯金残高は目減りする一方、妻は時短勤務を強いられながら、幼い娘を一人で育てなければならなかった。
追い詰められていく家族の状況を見透かした検察官は、「奥さん、子ども、一年もつかな」と言い放った。
「ガキだよ」「筋悪ですね」
取調室で浴びせられた言葉
取調べでは、検察官から江口さんの仕事ぶりへの言及もあったという。
「あなたの弁護士観っていうのはね。全然大間違いですよ。ガキだよ」
「超、筋悪ですね。まさに刑事弁護を趣味でしかやれない人、プロではない」
「司法研修所の弁護教官のところに話を聞きに行こうかな。こんなモンスターみたいな弁護士を生み出して、どういう教育してるんだって」
これらの発言を江口さんは「ただ相手の心を屈服させるためのマウンティング」と感じていた。
取調室には硬いパイプ椅子しかない。入浴は週に2回。前日の疲れが次の日へと積み重なっていく。過酷な取調べの中で、次第に江口さんは不思議な感覚に陥った。
「長時間にわたり理不尽な状況に置かれ続けると、やがてこの状況は一体何だろうかと考えはじめるんです」
幽体離脱したように、取調べの様子をカメラ目線で俯瞰して想像していると、江口さんは突如としてひらめいた。
「あ、これは大みそかの恒例になっていた『ガキ使』の『絶対に笑ってはいけないシリーズ』だと。検察官たちは、必死に私をしゃべらせようとあの手この手を仕掛けてきている。対する私は、どれだけ言い返したくなっても、口を開いてはいけない。そう気づいて、自分の置かれた状況がいかに理不尽なのかがわかりました」
取調べを「ガキ使」に見立てることで、江口さんは合計57時間の黙秘を耐え抜いた。決して信念を曲げなかったものの、一つだけ胸が押しつぶされそうになる後悔があった。







